女優、タレントとして幅広く活躍した中村メイコさん(本名・神津五月=こうづ・さつき)が12月31日に肺塞栓(そくせん)症で亡くなったと7日、所属するホリプロが発表した。89歳だった。既に親族での密葬を済ませており、後日、お別れの会を執り行う予定だという。

映画、ラジオを皮切りに草創期のテレビに多数出演した中村さんは16年に芸歴80年の節目を迎えていた。15年10月からはBS朝日「世界の船旅」のナレーターを務めるなど、現役活動を続けていた。天才子役と呼ばれた頃には榎本健一、古川ロッパ、徳川夢声、柳家金語楼、森繁久弥ら重鎮との共演を重ね、昭和芸能史を象徴する1人だった。

作家・中村正常と著述家・中村チエコの長女として生まれ、2歳の時にPCL映画製作所(現・東宝)の「江戸っ子健ちゃん」でデビューした。子役時代からラジオでは複数の配役をこなし「7つの声」として有名になった。テレビには40年の実験放送の頃から出演し、黒柳徹子と並んで草創期を支える存在だった。

16歳の頃、作家の吉行淳之介に恋心を抱くが、吉行は既婚。片思いで終わる。一方で、吉行の短編「水の畔り」に登場する少女のモデルになったことでも知られている。

55年からは歌手としても活動。「田舎のバス」(三木鶏郎作詞・作曲)が大ヒットした。この頃出会った作曲家の神津善行氏と57年に結婚。長女は作家の神津カンナ氏、次女は女優の神津はづき、その夫は俳優の杉本哲太、長男は画家の神津善之介氏と芸能一家で知られ、「神津ファミリー」と呼ばれた。関係者によると中村さんは善行さん、3人の子ども、孫ら「神津ファミリー」にみとられ旅立ったという。

59年からは3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務め、美空ひばりとは大親友、同世代の江利チエミとも親交があった。

ドラマでは60年代に「ザ・ガードマン」、70年代に「肝っ玉かあさん」、80年代には「大奥」「水戸黄門」「大岡越前」など時代を代表する作品で出演を重ねた。2000年代に入ってもNHK大河ドラマや「トットちゃん!」など、話題作への出演は絶えなかった。

「連想ゲーム」などの伝説的なバラエティー番組に数多く出演し、70年代にはワイドショー「3時のあなた」の司会も務めた。

一方で持ち前の声を生かし、ドラマ「ノンちゃんの夢」でナレーションを務め、「わんぱくフリッパー」や「猿の惑星」などの海外作品の吹き替えでも知られた。最後の仕事は昨年12月25日の番組収録だった。

夫の神津善行氏は「2歳8カ月で映画デビューしてから86年という芸能生活を、生涯現役のまま幕をおろすことになりました。長い時間をこの世界に存在させていただいたこと、皆様に深く感謝申し上げます」とコメントを発表した。

◆中村メイコ(なかむら・めいこ) 本名・神津五月(こうづ・さつき) 1934年(昭9)5月13日、東京生まれ。37年、映画「江戸っ子健ちゃん」のフクちゃん役でデビュー。テレビドラマには「おやじのヒゲ」シリーズ、「八代将軍吉宗」「篤姫」などの代表作がある。

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