歌手八代亜紀さんが昨年12月30日に急速進行性間質性肺炎のため亡くなった。73歳だった。所属事務所が9日、公表した。

日刊スポーツの担当記者が、取材秘話や交わした手紙とともに故人をしのんだ。関係の深かった著名人もX(旧ツイッター)などで追悼のコメントを発表した。

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八代亜紀さんを長時間取材したのは8年前のことだ。高倉健さん(14年83歳没)の秘話をつづる書籍の出版に際し、ゆかりの八代さんをたずねた。

オーディション番組に出演していた無名時代に、健さんから地方興行の前座に指名されたのをきっかけに、健さん主演の「駅 STATION」で「舟唄」がフィーチャーされたり、CMソングでデュエットしたりと、縁は深かった。

八代さんのくっきり顔は「濃いメーク」の典型のように言われていたが、楽屋を訪ねて間近で見ると、実は薄化粧で、その目鼻立ちの美しさにハッとしたことを覚えている。

初対面の健さんから「あなたの歌は女心を歌っても不思議に男の気持ちが見えるんです」と言われたことを明かした時は照れくさそうだった。前座の八代さんを舞台袖から送りだし「勉強させていただきます」と頭を下げたとも。憧れの存在からの「師匠扱い」だ。

浮世離れした空気を醸す健さんは、その出会いの直後から、ヒット曲や賞を競う歌謡界の最前線に飛び込んだ八代さんにとってはオアシスのような存在だったのかもしれない。

取材は予定を越え、健さんの珍エピソードに笑いが絶えなかった。マネジャーから「次の仕事が」と告げられ、残念そうにこうべを垂れる姿が、歌終わりのあいさつに重なった。形式的に見えたあのお決まりポーズにも、聴衆への感謝がちゃんと込められていたのだと、その時思った。【相原斎】