今月9日にピン芸人日本一決定戦「第22回R-1グランプリ」決勝が行われ、史上最多5457人の中から芸歴21年目の街裏ぴんく(39)が優勝した。

今年は2021年(令3)から続いた芸歴10年以内の制限が撤廃され、ネタ時間も3分から4分に延長された。

16年から5年連続決勝進出していながら、芸歴制限で3年間出場できなかったルシファー吉岡(44)も、無事に決勝に進出してきた。個人的には、ここ10年ばかりは“R-1と言えば”ルシファーと、同じく16年から5年連続出場のおいでやす小田(45)だった。小田は20年にこがけん(45)と組んだ即席ユニット「おいでやすこが」でM-1グランプリ準優勝に輝いたので、ルシファーの行方を心配していた。

そして、芸歴制限なしが復活したR-1グランプリで、つくづく感じさせられたのがお笑いコンテストの審査の難しさ、不可解さだった。ファーストラウンドは、敗者復活なしの9人で争われた。面白いと思ったマッチングアプリネタのkento fukaya(34)と、ツチノコネタのアマチュア史上初のR-1決勝進出者となったどくさいスイッチ企画(36)だったが、あえなく8位と4位。ファイナルラウンド進出3人に次ぐ成績だった、どくさいスイッチ企画だが点数は離れていた。

ファイナルに残ったのは1位通過が街裏ぴんく、2位が20年の“女芸人No.1決定戦”「THE W」優勝者の吉住(34)、そして3位がルシファーだ。長年、お笑いを取材したり、たまに審査員をやったりすると、いろいろな事を考えてしまう。芸歴10年の制限を取っ払ったのだから、やはりルシファーか街裏か。それとも、多様性の時代で女性の吉住か。

結果は「モーニング娘。の元メンバー」という大うそネタを演じた街裏が3票、吉住が2票。芸歴20年のピンク色の大男が優勝した。

これでめでたし、めでたしとなれば問題ない。街裏のことは、R-1に芸歴制限があった22年に行われた“芸歴11年以上のピン芸人No.1決定戦”Be-1グランプリ優勝の時にも取材しているから、その苦労も知っている。そして、いわゆる“お笑いのプロ”からの評価が高いのも、業界では周知の事実だ。

ちなみにファイナルで裏街に票を投じたのはハリウッドザコシショウ(50)、マジカルラブリー・野田クリスタル(37)、小籔千豊(50)。吉住に票を投じたのは陣内智則(50)、バカリズム(48)だ。ザコシショウと野田は、かつてR-1王者に輝いている。そしてMCはR-1優勝経験のある粗品(31)のいる霜降り明星と女優広瀬アリス(29)。

この顔触れが問題だ。ちなみに、記者は広瀬も含めて、全員を対面でじっくりとインタビューしたことがある。賛否両論があろうとネットで芸能人が炎上すれば、すかさずものまねするザコシ。コロナ禍の20年にモニターを使いゲームネタで優勝した野田。吉本新喜劇のことを語れば、まるで古典落語のように磨き上げられた話芸を見せる小籔。モニターネタを開拓したと言っていい陣内。そして“大喜利日本一決定戦”IPPONグランプリで歴代最多6回優勝で、脚本家として大注目のバカリズム。

つまりピン芸人として現役バリバリの超一流が審査員だ。ちなみに昨年暮れのM-1グランプリの審査員は松本人志(60)、博多大吉(53)、山田邦子(63)、中川家・礼二(52)サンドウィッチマン富澤たけし(49)、ナイツ塙宣之(45)、海原ともこ(52)。中川家とサンドウィッチマンは歴代王者でバリバリだが、出場者たちよりはるかに年齢が上のレジェンド。比較対照にはなりにくい。

それに比べ、R-1はまるで、メジャリーガーが上がってくるマイナーリーグの選手を選んでいるような錯覚に陥る。なにより、R-1直後に報告された、同じフジテレビ系の「ENGEIグランドスラム」に直前まで審査員を務めていたバカリズムが2番手で登場。秀逸なネタを披露した。これで、R-1のマイナー感が図らずも強調されてしまった。この日、一番面白いピン芸人は、バカリズムだと思った人も多いだろう。

ちなみに「R-1グランプリ2024」の世帯視聴率は5・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)、個人視聴率3・4%を記録。世帯視聴率は昨年を0・2ポイント下回り歴代最低だった。

芸歴制限撤廃だけでない、根本的な改革を望みたい。【小谷野俊哉】