山下達郎(72)は今年、デビュー50周年を迎えた。5月から、83年~93年に発売されたMOONレーベルのアルバム6作品がアナログ盤とカセットで再発売。5日には、2年ぶりのダブルA面シングル「オノマトペISLAND/MOVE ON」をリリースした。2日付芸能面掲載の「日曜日のヒーロー」に続くインタビュー第2回は、双方の魅力に迫るとともに、自身の50年とともに、日本の音楽の50年について聞いた。【村上幸将】
★「ポケモン」主題歌
「オノマトペISLAND/MOVE ON」は、ダブルA面となった表題曲2曲に加え、興行収入(興収)40億円を突破した、木村拓哉(52)の主演映画「グランメゾン・パリ」(塚原あゆ子監督)のチアリング・ソング「Sant■(アキュートアクセント付きe)」(サンテ)も収録。それぞれが単曲でもシングルとなりえる強力な3曲が、まとめられた力強い1枚となった。
「おかげさまで、新曲が5曲くらい貯まっているんで、あと5曲作ればアルバムになるなと。今更、出し惜しみしたって、しょうがないじゃないですか? 『Sant■(アキュートアクセント付きe)』を入れないで、アルバムまで待とうなんて戦術はもういいよ、と」
「オノマトペISLAND」は、Netflix配信中のポケモンの完全新作ストップモーション・アニメーション「ポケモンコンシェルジュ」の新エピソード(5~8話の全4話)の主題歌だ。
「『ポケモン』の世界って、あるじゃないですか。歴史を重ねているから(最初に出た時)幼稚園だった人も成人になっていますよね。コミックとかアニメは、子どもから大きくなっても、ずっと続いていくから。シーズン1は、竹内まりやが主題歌(23年の『君の居場所(Have a Good Time Here)』)だったので、その延長で。音楽関係のプロデューサーが、僕が主題歌を担当した17年の映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の音楽プロデューサーだったこともあって、声をかけていただいて」
オノマトペとは、擬音を意味する。
「『ポケモン』なんで、擬音の世界かなと思って、それで歌詞を考えました。勤めを辞めた女の子の話で、そこに初老の男性や元彼が出てくる。少し大人の方に訴求したいという意図だそうで。コマ撮りのストップモーションアニメで、1日1チームで4秒しか作れない…すさまじい。素晴らしい映像です」
★自己模倣回避模索
「MOVE ON」は、ダイハツの軽乗用車「MOVE(ムーヴ)」のテレビCM曲として6月5日からオンエア。自身が好む、パターンミュージックだ。
「歌詞は始めは全部、英語でいこうかと思ったり、インストでいこうかとも思ったんだけど、フュージョンになっちゃうから嫌だ…と、いろいろ考えたんですよ。350曲以上も書くと、なかなか大変でね…でも、工夫して自己模倣にならないようにしないと。そこがパターン・ミュージックの難しさ。(楽曲が途中で)ちょっとトーンダウンするんですよ。少しネガティブになり、そこから再び『MOVE ON』で乗り越えよう、ゲットオーバーしようという感じに戻る」
「Sant■(アキュートアクセント付きe)」は、急な楽曲制作の依頼から全てが始まった。
「去年の年の頭に、いきなり、時間がないから2週間で書いてくれと…。脚本だけだったら2週間では、とても無理。でも、すでに映像は完成していたんです。それだったら書けるかな、って」
完成した作品を見て、物語を歌詞に落とし込んだ。周囲との軋轢(あつれき)も辞さず、ストイックにフランス料理と向き合う、木村演じるシェフ尾花夏樹へ送る、1つのメッセージとなった。
「主人公に対する応援歌ですから。静かな怒りを秘めて、進め、と。やっぱり、主人公のキャラクターに思い入れるというか、ね。今はコンプライアンスだとか、いろいろ言っていますけれど…職人って、ああいう身勝手さはあるんですよ」
★商品マーケが重要
MOONレーベルのアルバムの再発売が、非常に好調だ。5月発売の83年「MELODIES」は7位、6月発売の84年「BIG WAVE」9位、7月発売の86年「POCKET MUSIC」は10位と、オリコン週間アルバムランキングで毎月、ベストテン入りを続けている。75年にデビューした「SUGAR BABE」のアルバム「SONGS」も、4月に50周年記念盤「50th Anniversary Edition」をリリースした。山下は「努力をした部分があるんです」と語る。
「昔はタイアップと言っても(リリースしたら)それで終わり。『曲をもう1回、再利用するなんて、そんな、ふざけた話はない』『新曲を書け』と言われる。それが常識だった。今は、そうじゃない。再利用、リサイクルする。『SONGS』が50年もったのは、みんなの努力のおかげです。1度も売り切りしたことがない。今でもバックオーダーが、ちゃんと取れる。商品マーケティングは、すごく重要です」
日本には、旧譜を再生産する文化自体、なかった。
「ポップカルチャーは、あくまで商売なので、お金を回して次に続けないとダメ。70年代は2800円のアルバムが7万枚売れれば、レコード会社が次を作らせてくれた。日本の場合、今と昔では商品性が全然、違っていて、昔はカタログが長く残ることがなかった。大体、みんな3~5年でデッドストック化するんです。歌謡曲を見れば分かりますけど、60年代なんか、みんなそう。橋幸夫さん、三田明さんとか、年末年始にゴールドヒットシリーズとか廉価盤にまとめられて終わり」
★80年代から価値UP
「そういうのが少しずつ、変わり始めたのは80年代です」と語る。要因として、80年代にアルバムの価値が高まったことを挙げた。
「アイドルはシングルをアルバム、LPになんて入れなかったし、アルバムからシングルカットもしない。シングルは40万枚売れるけどアルバムは5万枚…そういう時代があった。82年の『LOVELAND ISLAND』は、シングルカットしなかった。なぜか…アルバム『FOR YOU』を売ろうと思ったから。シングルからアルバムに、商品価値が転換してきた時代なんです」
★レコード残す努力
日本語でロックを始めたのは、70年にアルバム「はっぴいえんど」をリリースした、はっぴいえんどと言われる。当時、全盛だった歌謡曲の歌手は10代でヒット曲を出すと、30代になれば曲を携えての営業、50代以降になるとディナーショーで収益を上げる、というパターンが通例だった。山下はSUGAR BABEを含め、違う考え方を持って活動したと振り返る。
「僕らは、そうじゃないので。1つの世代感覚というか…20代が30代、30代が40代、40代が50代になったら、どういう価値観の変化があるか。そういうことを考えて作る音楽が、当時はそんなになかった。でも、それは、すごく重要なこと。曲の良しあし、演奏の稚拙さ、録音がどうとか、楽曲のコンテンツのクオリティーに対する問題点はありましたけど、ただ1つ、言えるのは、レコードを歴史、文化、資産として継続させ、残していく努力は、かなり進展した。それが今に繋がっていると言えると思うんです」
80年代に米国でMTVが普及し、音楽は映像に付随するものと化してしまう。日本でもMTVが放送されるようになった90年代は200万枚、300万枚、売れるヒット曲も生まれたが、歌唱そのものより、ダンスやパフォーマンスを絡めたものが主体だった。それが10年にインターネットラジオのradikoが始まり、音楽ストリーミングサービスSpotifyが13年にスウェーデンから上陸し配信へと移行していく流れの中で、音楽を聴く方向に戻って来たと分析する。
「今は、誰でも定額で何百件も再生可能になっている。もう、MTVの機能もそれほど強力じゃなくなっている。むしろサブスク、Spotifyの方が、今の言葉で言うとバズる。そういう意味で、音楽に戻って来ているのかなと。逆にそれは(過去の楽曲も、いつでも聴けることで)歴史の連関性が失われていく問題もあるんですが」
7月に初出演したFUJI ROCK FESTIVALでも感じるものがあった。
「FUJI ROCK FESTIVAL2025を見ても、聴覚で集中するという、音楽本来のスタンスに戻って来ているのかなという印象がありますけども。radikoも、大きいですね。重宝しています。(79年に登場した)ウォークマンとも近いものがありますね」
★待望「JOY」続編
そうした中で待望されるのが、89年のライブアルバム「JOY」の続編「JOY2」のリリースだ。
「来年、出せと言われていますがね。ライブソースを、アーカイブスしたのを、ようやく3分の1くらい聴いたんだけど…トラック数だけで1000何百もあるので。だけどここまで粘ったおかげで、この数年で録音の環境が、ものすごく改善された。3年前だったら『MOVE ON』も、もっと、デジタル、デジタルした音にしかならなかった。もう少々、お待ちください。何枚、出すか。3枚組にするのか。今の状況でいくと、ヘタすると6枚組になりますからね。しょうがないから3、4という感じで出していくか、どう並べるか…大変なんですから」
直撃に、こぼれた笑み…期待しても、良さそうだ。



