【バンクーバー(カナダ)9月29日(日本時間同30日)=横山慧】俳優妻夫木聡(33)が、バンクーバー国際映画祭で行われた主演映画「バンクーバーの朝日」(石井裕也監督、12月20日公開)ワールドプレミア上映に出席した。拍手と笑い声があふれた会場で、地元ファンからの温かい歓迎を受け、感激の涙を流した。

 エンドロールが流れ始め、会場が再び照明で照らされると、妻夫木は晴れやかな笑顔を見せた。女性ファンからは「キャアア~」「ワアアアア」などと悲鳴のような歓声を、総立ちになった1800人からは拍手を浴び続けた。立ち上がり、後ろを振り向き、お辞儀して感謝の気持ちを示した。隣にいた共演者のKAT-TUN亀梨和也(28)と右手でガッチリ握手。拍手を続ける笑顔の瞳は、涙でうるんでいた。

 上映中に、何度も歓声が上がっていた。妻夫木演じる日系人の若者が所属する野球チームが試合に初勝利すると、大きな拍手。バントを決めた妻夫木が顔をゆがめて全力疾走するシーンでは、笑い声と、歓声が上がった。上映後、妻夫木は「みなさんの笑い声や拍手を聞いて、涙が出てきちゃいました。本当に自分はこの映画に関われてよかった」と興奮気味に振り返った。

 妻夫木は、98年の俳優デビュー以来、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞(11年)など、多くの映画賞を総なめにしてきた。実力者ゆえの悩みもある。上映前には、地元メディアから「俳優業のいいところ、悪いところは」と質問を受け「悪いところ…かは分からないですが、若い時にはいろんなことが新鮮で刺激的だったけど、今は楽しいだけじゃなくて、苦しみに変わっている部分もある。自分自身との闘いです」と、独特の葛藤を明かしていた。

 それでも、上映後には「自分の作品にこんなにパワーをもらったのは初めて。もう、生きててよかった…ってくらい感動しました。今後も頑張っていきたいです」と吹っ切れた様子だった。バンクーバーでの英語交じりの大歓声は、日本を代表する若手俳優を、さらに1つ上のステップに押し上げていった。

 ◆「バンクーバーの朝日」

 戦前のバンクーバーが舞台。日本からの移民2世らで結成され、かつて同所に実在した野球チーム「バンクーバー朝日」の奮闘と、差別や過酷な労働環境など、当時の移民らが置かれた厳しい状況を描く。上地雄輔、池松壮亮、宮崎あおい、高畑充希、佐藤浩市、鶴見辰吾らが出演。実際に同チームに所属していたケイ上西(かみにし)功一さん(92)も特別出演している。