「言うだけ番長」。言葉と行動が伴わないことを指す言葉だが、言行一致が求められる永田町で、このキャッチフレーズを指摘されるのは、やっぱり不名誉だと思う。思い描いた政策や戦略がなかなか実を結ばないことから、かつてこのフレーズで呼ばれたことがあるのは、現在、日本維新の会の共同代表に就いた前原誠司氏(62)だった。
永田町関係者は「前原さんは、近年訴えてきた教育無償化について、政府の25年度予算案に反映させた(現在、参院で審議中)。評価は割れるとはいえ、かつての"汚名返上"のチャンスがめぐってきている」と話す。一方で「今の永田町でだれが『言うだけ番長』かといえば、石破総理でしょう。政治とカネに厳しい態度で臨む姿勢を示していながら、10万円の商品券をまだお金に慣れない新人議員に配っちゃうんだから」。
法的な問題はないと主張を続けるものの、10万円もの額の商品券を、新人議員15人の家族への「おみやげ」だと言って配布する石破茂首相(68)の金銭感覚は、確かにこれまでの「どちらかといえば、国民に近い庶民派」という長年のイメージを崩壊させた。今回の10万円商品券配布問題は、石破首相の、何よりも大事な政治家としてのイメージを一変させてしまう深刻な問題に発展してきている。
石破首相と前述の前原氏は、親交が長いことで知られる。今回の問題を受けて14日に記者会見した前原氏は、合計150万円の商品券の原資を「私の私費、ポケットマネー」と言った石破首相の発言に「石破さんからそんな言葉が出ること自体、非常に違和感がある。最もそういうことから遠い方だと思っていたので残念だ」と、述べた。
そして「慣れないことをやってしまったのではないか」とも嘆いた。
首相就任前の石破首相と会食した経験を持つ関係者を取材すると、特に高級店というわけではない店で、くつろぎながら庶民的なメニューを選ぶ様子は、やはり「国民に近い」と思わせる姿だったという。それが、5度目の挑戦で悲願だった首相の座にのぼりつめた途端、国民感覚とはかけ離れた金額の商品券を、手みやげとしたことが発覚。「ハンカチでも、お菓子でも買ってねという思いだった」と、およそ10万円とは結びつかない品名を出しながら国会で答弁する石破首相の姿には、本当に「国民に近い」政治家なのか、疑わしい気持ちにもなった。
14日の参院予算委員会で答弁した石破首相は、首相就任前と後で「世間のみなさま方と遠くなってしまっているという反省」があると語り「感覚を失っているとすれば猛省しないといけないし、『すれば』ではなく、失っているということを深く反省をするところだ」と口にした。立場だけでなく感覚も変わってしまったと認めるような言葉に、冒頭の「言うだけ番長」というフレーズが、頭をよぎった。
最近の石破首相は、番長かどうかは別にしても「言うだけ」の対応が続いてきた。高額療養費制度の負担上限額引き上げについて、方針修正を繰り返し、批判に抗しきれず結果的に当初方針を全面凍結。振り回された患者の方は、たまったものではなかったと思う。昨年の衆院選では、派閥裏金事件を踏まえて「ルールを守る」と公約で訴える中、投開票日直前に、裏金問題で公認を得られず無所属で立候補した自民党議員が代表を務める政党支部に2000万円を支給したことが発覚。石破首相は候補者個人に支出したのではないと反論したが、政治とカネの問題に厳しく向き合ってきた石破首相が最終的に了承したこの判断は、自民党大敗の敗因の1つといわれる。
その流れからの今回の商品券問題。これまで見せてきた姿と、実際の姿が違うんじゃないかという「疑念」を、国民に引き起こさせてしまう形になったのは、石破首相にはかなり痛いのではないだろうか。
「『おみやげ』の中身など本来あまり公にならないが、渡した相手が新人議員で額が大きすぎた」(政界関係者)こともあって表面化したとみられる、今回の商品券配布問題。石破首相には、かつて師事した田中角栄元首相の政治手法の記憶が残っていたのではないか、と指摘する声があったり、私費ではなく領収書がいらない官房機密費を使ったのでは?という声も消えず、石破首相がいくら釈明しても、なかなか受け入れられる様子はみえない。
石破首相はさきの自民党大会の総裁演説で、かねがね語ってきた渡辺美智雄元副総理の言葉「政治家の仕事は勇気と真心を持って、真実を語ること」に触れたばかり。それを今、国民が納得できる形で実行しないと、自身が築いてきたイメージも本当に「言うだけ」だったと言われかねないと感じる。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


