社会のあり方を変える未曽有のパンデミックに襲われた2020年も、あとわずか。日刊スポーツでは、当たり前が当たり前でなくなった1年を、さまざまな視点から記録する「メモランダム2020 『ニューノーマル』元年を振り返る」を随時掲載します。初回は、テレビで見かけない日はないほど連日の出演で、新型コロナウイルスについて分かりやすく説明し続けている、感染免疫学が専門の岡田晴恵・白鴎大学教授に聞いてみました。

   ◇   ◇   ◇

-本当にまた、感染は拡大するのですか

岡田教授 インフルエンザや風邪コロナウイルスなどは低温、乾燥という環境ではやりやすく、四季のある温帯地域では冬に流行しやすい。ですから、新型コロナウイルスも12月から2月にかけて大きな流行が来ると想定して対策を準備すべき、と思ってずっと提言してきました。年末年始はクリニックなども休む可能性が高いので、この時期の発熱患者をどうやって診る医療体制を組むのかが目下、急務の課題です。感染症の流行の対策は、危機管理対応としてとらえて当たるのは、原理原則です。もちろん、個人で行うマスクと手洗い、あとは換気。換気は冬季は特に徹底してください。

-新型コロナって「ただの風邪」では?

岡田教授 感染しても症状が出ない場合もある若い人にとっては「ただの風邪」って感じるかもしれない。でも後遺症もあります。また、中高年や基礎疾患を持っている人などは、重症化し、死に至るリスクも高くなります。新型コロナは年齢層、世代、人によって怖さが違う、怖さの感じ方に温度差がある。市中感染率が上がれば、若い無症状感染者が、ハイリスクの人たちにうつす可能性が高まる。だから、若い人も予防して市中感染率を下げることが必要なんです。

-日本では欧米ほどの感染爆発が起きないのはなぜですか

岡田教授 結核予防のBCGワクチン接種が免疫を上げる可能性や、人種や血液型の違い、ウイルスの侵入時期、ウイルスの違い、マスクの使用率だとか、さまざまな説が浮上していますが、確かなことは分かっていません。その「ファクターX」が、本当にあるのかどうも分からない。ですから、ファクターXで楽観的になるのはいけません。

-ワクチン開発に希望が見えてきました

岡田教授 安全性と有効性の検証が必要です。それはこれからです。第4相まで、つまり、承認されて多くの人が接種した後も検証していく必要があります。欧米での接種成績で有効性、安全性を同時に見ながら承認も政策も決めていく。そうなると思います。

-医学が発達し、公衆衛生の行き届いた21世紀に、なぜ新しい感染症が次々と生まれるのですか

岡田教授 人口が増加し、自然界の開発が進み、野生生物の生息領域に人が立ち入るようになって、昔からあった動物由来のウイルスに、人が感染しやすくなったこともあります。SARSコロナウイルスは、もともとコウモリのウイルスです。たぶん、この新型コロナウイルス(SARS-CoV2)もそうです。感染拡大の一因は、グローバル化です。人が動けばウイルスも動く。シルクロードを人や物が行き来した時代は、何年もかかって天然痘や、はしかが流行しました。およそ100年前のスペイン風邪もパンデミックになるのに6カ月かかっています。今は高速大量輸送の時代です。かつてなら中国・武漢の風土病にとどまっていたかもしれない新型コロナウイルスは、瞬く間に世界に拡散しましたね。

-日本の対策を見ていると、科学が政治を追認しているように見えます

岡田教授 そこは私には分かりません。私は原理原則を言い続けるだけです。検査が必要と医師が認める人、疑わしい人はすぐに検査できるようにして、陽性者は保護し、医療が必要な人を入院できるようにすることは、人命を守り、医療崩壊を招かないために必要です。現在、都会を中心に市中感染率が上がり、高齢者の感染、重症者も増加しています。検査診療外来を増やすことや、医療支援など現場への対策のてこ入れが間に合ってくれれば、と願うばかりです。

-テレビ出演のほか「新型コロナ自宅療養完全マニュアル」などの本の執筆にも精力的です

岡田教授 ワクチンで予防できる病気なのに、知らなかったばかりにお子さんを亡くしたお母さんがいました。お母さんの涙が忘れられません。私たち専門家が当然、知っていることを一般の方がみんな知っているわけじゃない。難しい医学書だけでなく、一般の人に分かりやすい情報を提供する本を書くことが大切なんだと思うようになりました。知識で予防する「知識のワクチン」も有効です。だから私は「知識のワクチン」となる本を書きたい。中国や台湾、韓国でも訳本を出してもらえるようになりました。どの国・地域でも、求められることは同じなのかもしれません。【取材・構成=秋山惣一郎】

▼岡田晴恵(おかだ・はるえ) 白鴎大学教授。専門は感染免疫学、ウイルス学、児童文学。国立感染症研究所、経団連21世紀政策研究所などを経て現職。感染症対策の専門家として、放送、出版など幅広いメディアを通じて発信している。著作は専門書から絵本、小説など幅広く、「病気の魔女と薬の魔女」「新型コロナ知る知るスクール」など多数。