高原のねごと

矢野阪神も重要視、吉本会見に思う「伝える」難しさ

世間の話題はすっかり吉本興業です。しかもゴタゴタ、マイナス面での話題なのはつらいところです。

阪神清水雅治ヘッドコーチ(左)と矢野燿大監督(2019年5月17日撮影)
阪神清水雅治ヘッドコーチ(左)と矢野燿大監督(2019年5月17日撮影)

プロフィルにもあるように演芸担当記者として吉本興業、野球記者として阪神タイガースと、関西を代表する2つのコンテンツを取材させてもらってきた身としては複雑な気持ちがしています。

騒動の発端は芸人サイドによる「直取引の営業」とそこに反社会勢力が絡んでいたことなのですが、かなり違う話になってきています。

何が起こっているのか。真実、詳細はまだ分からないのですが、タレント側、事務所側双方とも現在、言われている以上に表に出てきていないことがあるんだろう、と想像しています。

22日に行われた吉本興業・岡本昭彦社長の記者会見も見ました。そこで痛烈に思ったのは「伝える難しさ」ということです。

私の記憶が正しければ岡本氏が吉本に入社してきたのは90年初頭です。当時、記者として吉本興業に出入りしていた立場で会話もしました。

「なんばグランド花月」のあるビルにあった事務所への出入りはかなり自由でした。楽屋ロビーにも普通に行けましたし、そこで芸人さんたちと世間話をしたり、お茶を飲んだり。

たまには芸人さんが「ニッカンさん、あのな…」と他のタレントのネタを教えてくれたりしたことも。吉本の社員とも同じような感じで接し、現在とは違って牧歌的というかおおらかなムードが漂っていました。

大学でアメリカン・フットボールをやっていた岡本氏はバリバリの体育会系。見た目も現在とは違ってスリムで精悍(せいかん)な感じでした。しかも体育会系なのでこちらを先輩扱いしてくれます。調子に乗って彼が外出するタイミングで「ついでにコーヒー買ってきてくれへん?」などと頼んだ記憶があります。

その後、93年にこちらは野球担当になり、会う機会もなくなりました。再開というか、再び顔を合わしたのは10年前、ダウンタウンの松本人志氏が映画「しんぼる」を製作した頃です。

同映画が韓国・釜山映画祭に出品されることになり、各紙が取材で吉本側の招きもあって渡韓したのです。諸般の事情で当時、デスクだった私が同行することになりました。

そのときに岡本氏と再開。出世しているので「エラなったんやなあ~」と思わず口にするとタバコを吸いながら「ええ。まあ…」と照れながら話していたことを覚えています。

いわゆる“口ベタ”なのは会見を見れば分かるところでしょう。関西人だから、みんなペラペラしゃべりまくるということではありません。当然ながら。

話の中身もどこまでがどうなのかよく分かりませんが、問題になっている部分も本当にそこが災いしたのだろうな、とは思います。

特に味方をするつもりはありませんが、吉本興業の体質がどうだという問題は別にして、社長という立場からの「伝え方」が何よりも岡本氏はうまくなかったんだろうな、という気がしているのです。

ここで阪神の話になります。今季から阪神に入団した清水雅治ヘッドコーチが以前にこんな趣旨の話をしていました。

「矢野監督が気を使っているのは『伝える』ということの大事さなんです。これは日本ハムの栗山監督も同じなんですね。ボクは栗山さんの下でもコーチをやりましたけど、そこは本当に似ているんです」

野球の世界に限らず、会社、学校、どんな組織でもルールや方針、あるいは活動のやり方などについて「伝える側」と「伝えられる側」は存在します。

組織の意思と違うことが起こったときに伝えた方が「言うたやないか!」と怒っても、聞いた方に伝わっていなければどうしようもない。

伝える側が自分の思いを口に出して言えば、それで伝えた…ということには必ずしもならない、という点です。伝えられている側が理解できなくては伝えていることにはならない、ということ。これまでのタテ社会ではそれが多かったように思います。

矢野監督は虎番記者たちとの囲み取材でもかなり言葉の数が多いタイプです。過去、名監督たちはそれほど言葉を口にすることはありませんでした。私の経験で言っても仰木彬氏しかり、星野仙一氏しかり、です。星野監督はよく話しましたが、1つ1つの指導を懇切丁寧にするというタイプではありませんでした。

そこに清水コーチが言う「伝える」ということをメディアに対しても重要視している姿勢が感じられます。選手に対しても言うまでもないということでしょう。

プロ野球の世界では過去、聞く側が伝えようとしている側、つまり選手側が監督なりの言葉を努力して理解するの普通でした。それでなくても上下関係の厳しい世界。ほんの少しの言葉で、監督、コーチが考えていることを理解する努力が続けられたものです。

我々、マスコミの世界も似たようなものでした。しかし、いろいろな意味で世の中は変わっています。古い感覚で言ったり、行動したりしていると、思わぬ事態に陥ることもあります。誰が良いとか悪いとかではなく、そういうことは起こり得るということです。

コミュニケーションが大事なんていうのは今更言うまでもない話なのですが、世の中の動きを見て、本当にそんなことを感じています。

吉本興業の岡本昭彦社長(2019年7月22日撮影)
吉本興業の岡本昭彦社長(2019年7月22日撮影)

取材生活30年を超える古だぬき記者。吉本興業から宝塚歌劇団、あるいはヤバい人たちの取材から始まり、プロ野球ではイチロー日本一(96年)星野阪神V(03年)緒方広島連覇(17年)などの瞬間に立ち会った。日刊スポーツ大阪本社編集委員。

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