高松商は今秋ドラフト1位候補の浅野翔吾外野手(3年)が「イチロー流」の足攻めで躍動し、1970年(昭45)以来52年ぶりの8強を決めた。1回に内野安打で出塁し、二盗。直後に先制のホームを踏んだ。相手投手の特徴を読み切った好走塁が光った。11日の佐久長聖(長野)戦は2打席連続本塁打。清原和博氏のPL学園(大阪)時代の記録を抜いて、高校通算66号まで伸ばしていた。高松一高出身で、西鉄の主砲として本塁打王5度の中西太氏(89=日刊スポーツ評論家)も同郷の後輩にエールを送った。

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スラッガー浅野の「野球脳」がキラリと光った。1回、先頭で当たり損ねのゴロになったが俊足で二塁内野安打。1死後、右打者の渡辺升の初球に猛然とスタートを切った。鮮やかな二盗に成功し、山田の左前適時打で激走生還。主砲の「足」で先制点をつかんだ。

盗塁の直前、左打者の時には立て続けにけん制された。だが、冷静だった。「右打者にチェンジアップが多いデータが頭に入っていた。チェンジアップの持ち方でけん制はない」。根拠に基づく初球盗塁だ。高校通算66発の強打者は足もある。長尾健司監督(52)も「浅野だけは自分のいける感覚の時、いってくれている。いいリズムだった、意表を突いて。いい先制パンチ」と褒めた。

今秋ドラフト1位候補は50メートル5秒9の脚力を誇る。この日はイチロー流の走塁技術も生かした。昨年12月に直接指導を受け、胸に留めている言葉がある。

「跳ねてリードするんじゃなく、インパクトをしっかり見るために静かにリードする方がいい」

目線をぶらさず、投手のリリースや打者のミートを捉える。的確に状況を判断するための心構えだ。

佐久長聖戦で衝撃の2打席連続本塁打も我を失わなかった。前日14日、指揮官に「大きいのを狙わずに、しっかりヒットで塁に出てプレッシャーをかけていきます」と伝えていた。

主将らしく勝利を最優先するのは理由がある。13日にコロナ感染とみられる主力2選手が離脱。涙を流して宿舎を後にした。新チームが発足した1年前に掲げた目標の「夏の甲子園ベスト8」を達成したが、満足できない。浅野は「2人も甲子園でやりたい。帰ってくるまで、を目標に変えた」と語気を強める。友の無念を思えばこそ、まだまだ踏ん張れる。【酒井俊作】

 

【中西太氏エール】

わがふるさとから“中西2世”が甲子園に出場すると聞いたものだから、このところテレビにくぎ付けだよ。浅野を見たのは、ホームランを打った佐久長聖戦に続き、2試合目だった。

なかなかいい選手だと思ったね。初戦で左右に打ち分けた本塁打が証明したように広角に飛ばす力が備わっているのは魅力だ。私も身長172センチで小さな方だが、浅野は170センチだというから、腕っぷしが強いのがわかる。

左投手にてこずった一戦は、思い切って振る機会がなかったようだ。第3打席の4球目ストレートがファウルだったが、1球で仕留めるとすれば、あの1球ぐらいだった。

我々の時代と違うトレーニングの成果だろうが無駄のない、鍛えられた筋肉が印象的だ。小柄だからと気にすることはない。私だってケツは大きいが、上背がなくてもホームランを打つことはできた。今後大事なのは足元を固めながらミートポイントをつかむことだ。

この2戦で計10打席立ったわけだが大物の片りんは感じられる。私だったら俊足強打の浅野をいかに育てるだろうかと考えながら見ていた。私には巨人岡本和とも、ヤクルト村上とも違ったタイプにも見えた。

これからチームを引っ張りながら勝ち上がっていくと、これがまた自信につながっていく。周りからの手助けも必要で、大いに期待したい。“中西2世”を確かなものとし、“郷土の宝”と認められるまでの選手になって羽ばたくことを願ってやまない。(日刊スポーツ評論家)

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