巨人から交換トレードで移籍した日本ハム矢野謙次外野手(34)が、猛打賞で新天地デビューを果たした。新加入から一夜明けたこの日、DeNA1回戦に「6番DH」でスタメン出場し、いずれも二塁打の3安打を放った。3安打目は延長11回、先頭打者で出塁し、サヨナラ勝ちを呼び込む一打。新本拠地でアピール十分のスタートになった。

 飛び出したが、まごまごした。延長11回2死二、三塁。大奮闘のデビュー戦で、暴投でのサヨナラ劇。矢野は三塁側ベンチから歓喜の輪へ向かう。ふと気付いた。巨人時代の標的が、いない。「水を掛けたりとか…。誰にいっていいのか分からなかった。戸惑いました」。この回の先頭打者で左越え二塁打。伏線をつくったヒーローだった。自然と、新しい仲間たちが体を寄せてきた。お立ち台で、腹の底からシャウトした。

 「ファイターズ サイコー!」

 強い縁で結ばれていた新天地で、はじけた。オープン戦や交流戦、日本シリーズ。ビジターの一塁側にあるグラウンドキーパーの用具室。壁に「巨人矢野」の緑色のサインがある。

 4年前の11年だった。

 「1本、ちょうだい」

 無邪気な一言から、赤い糸がつながった。

 狭い6畳に満たない空間。巨人長野と突然、姿を現した。キーパーたちが、ゆでとうもろこしを食べているのを見て、おねだり。2人で1本を分け合って、うれしそうに食べた。

 北海道へ本拠地移転時の04年から現職、女性キーパー工藤悦子さん(61)が思わずサインをお願い。矢野は笑顔で、したためたという。カードの初戦にはユニホームに着替える前のスーツ姿で、あいさつへ訪れたという。連戦の最終日。試合後の整備をする工藤さんの姿を探し、必ず「また来るね」。長居をしすぎ、ミーティングに遅刻しかけたこともあった。

 律義で実直な「巨人矢野」を、みんな大好きだった。工藤さんは言う。「礼儀正しくて、本当に明るい人。日本ハムに入団した今が、夢みたい」。

 真新しい「37」を背負った「日本ハム矢野」に無数の祈りを、注いだ。それに応えるハッスルだった。

 二塁打のみを重ね3安打猛打賞。すべて得点につなげた。「前夜は眠れなかった」という極度の緊迫感に襲われた。ほか3度の得点圏では凡退したが所信表明には十分だった。

 今季2度目のサヨナラ勝ちを運んだ。矢野は当時、日本ハムに好感を抱いていたという。「まとまっていて、素晴らしいチーム」。体感する日が、ついに来た。【高山通史】