阪神は今季、矢野燿大新監督(50)が指揮を執り、最下位からの立て直しを図った。シーズン最終盤の劇的な6連勝で貯金1の3位に滑り込んだが、優勝は14年連続で逃した。来季こそ優勝するための課題、収穫はどこにあるのか。1年間密着取材してきた阪神取材班が、~矢野阪神1年目検証~「光と影」と題した連載で検証する。

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驚異的なラストスパートでAクラスに滑り込んだ阪神だが、長丁場の戦いでは拙守が暗い影を落とした。矢野監督は「接戦をつかむのがウチの野球」と話していたが痛恨の守備ミスで敗れ去るケースが目立った。7月16日の中日戦。同点の9回1死一塁で、平田の飛球は右中間最深部へ。中堅近本の守備範囲だ。落下点にも入った。だが、グラブをかすめて捕れない…。サヨナラ負けの伏線になり、自力優勝の可能性が消滅した敗戦になってしまった。

試合後、矢野監督は苦言を呈した。「簡単とは言わんけど、ああいうのを捕ってあげてほしい」。9月19日ヤクルト戦でも三直で飛び出した二塁走者を刺そうと大山が二塁送球したが、悪送球失策で失点につながった。指揮官は「特に送球のエラーは、しっかりしていかないと」と指摘した。守備の失策にはさまざまなケースがある。ゴロ捕球ミスはイレギュラーバウンドなど外的要因もあって難しさをともなうが、飛球捕球や送球は技量があればミスは確実に減る。地道な反復練習がモノを言う。

今季102失策は12球団ワーストだった。00年の101失策以来、19年ぶりに大台の屈辱だ。中日の最少45失策と比べても倍以上の多さだ。本拠地がイレギュラーバウンドしやすい土とそうでない人工芝の差はあるだろう。だが、それを差し引いても失策の多さが際立つ。8カ月前、沖縄での不安が的中してしまった。

2月の沖縄・宜野座キャンプを見た他球団関係者は口々に言う。「この練習量で大丈夫なのか?」。昨年10月に就任した指揮官は「自主性」を重んじた。選手が自ら考え、自ら動いて課題を克服する。プロのあるべき姿を尊重した。成長をうながす立派な方法だ。だが、選手個々に委ねる分だけ、圧倒的な練習量が減ってしまうリスクもある。

恒例メニューが消えた。例年なら、連日のようにキャンプの通常練習が始まる前、内野手がメーン球場でゴロ捕球や送球などを丹念に繰り返していた。午前9時過ぎから泥まみれ。「早出特守」は日常的だったが今年は一変。藤本内野守備走塁コーチが大山、北條、糸原らにノックを打つ光景もあったが多くの日はグラウンドに誰もいなかった。

阪神に密着する他球団スコアラーも「昨季は最下位。もっと練習しないとうまくなるわけがない。練習でできないことは試合でできるわけがない。ゲーム感覚を養えないでしょう」と指摘した。今後も選手個々の自主性を尊重し、レベルアップを図る。個々が自ら気づき、自ら必要な守備練習を課すなら、さらなる守備力の向上を見込めそうだ。

守備に対する意識づけも大切なポイントだ。球界関係者は守備力にたけた中日との差を「中日は捕る、投げる、すべての動きにメリハリがある。阪神はただ捕って、何となく投げているだけに映ってしまう」と指摘。試合前練習から徹底できていたか。手堅い守備も覇権奪回の条件だ。【阪神取材班】

▼今季の阪神は、満塁に弱かった。得点圏でのチーム打率2割4分7厘、21本塁打、395打点はいずれもリーグ最下位だったが、満塁時のチーム打率も135打数27安打の打率2割。本塁打は1本だけで、打点は77。打率、本塁打、打点の3部門すべてでリーグ最下位だった。優勝した巨人は同2割9厘と打率は阪神と大差ないが、7本塁打を放つなどで109打点と勝負強さを発揮。最下位のヤクルトも同2割8分2厘、2本塁打でリーグ最多の132打点を挙げている。阪神は、強力投手陣を援護するためにも、好機での勝負強さを磨きたい。