日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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阪神が再び新型コロナウイルス感染に襲われた。1、2軍の5選手とスタッフ2人に陽性判定。3月の藤浪ら3選手とあわせてチームから10人が発症したことになる。

球団は広島、名古屋遠征の指定日に限って、球団関係者との外食を許していたらしい。その名古屋で許可した「9月19日」の会食メンバーから5選手が感染した。

政府がイベント入場制限を緩和し、プロ野球、Jリーグが、観客上限5000人を撤廃して開催されたのが19日だった。国内スポーツが緩んだその日に問題は起きた。球団は会食を「4人まで」とルール化していたようだ。大阪府知事の吉村洋文は8月31日の解除まで「5人以上の飲み会自粛」を呼び掛けた。人数に根拠はないが、明確な基準を示したわけだ。

NPBとJリーグ合同の第14回新型コロナウイルス対策連絡会議で、専門家メンバーの三鴨広繁(愛知医大教授)が「だれが感染してもおかしくない」と説明し、有識者は正しく恐れることを強調した。19日の中日戦を終えた福留、糸原ら8人の大勢で繰り出したのは、球団の決め事に反する行動としては論外。フロントは把握していたのだろうか。

週初めの14日は12球団オーナー会議が開催されていた。議長の南場智子(DeNAオーナー)が「全く予断を許さぬ状況に変わりはない。規制緩和に伴い今まで以上に感染防止を徹底してまいります」とプロ野球界としての姿勢を示したばかりだった。その会議には阪神オーナーの藤原崇起も出席していた。週末にかけて見舞われた感染に、球団の最高責任者として、この社会情勢を踏まえた上で、緩めたのか? 引き締めたのか? うかがってみたい。

さらに、開幕前に藤浪らが感染した際は、球団社長の揚塩健治が代表取材に答えたが、今回はメディアに対応することがなかったのも引っ掛かった。

今シーズンはどのチームもオンライン取材が増えた。便利なツールだが、不便もある。メディアコントロールに都合が良いかもしれないが、一方通行であってはならない。そこは今後の課題として、これだけ社会的反響が大きいのだから、オンライン取材が不可能であれば、球団トップはファンに向けてのコメントを発するべきだった。

9月21日の第16回新型コロナウイルス対策連絡会議の会見でコミッショナーの斉藤惇は「野球を愛しているファンだからこそ、無事に何事もないようにしていただくのが最大の応援です」とファンにメッセージを送った。そこへもっての阪神。ファンは守ってきた。メディアも入場制限などに協力してきたつもりだ。正しい行動での罹患(りかん)は仕方がない。だがルールを守れという当事者が秩序を守らないのは、どう理解していいのだろうか。(敬称略)