西武主催の沖縄2連戦が終わった。故郷でお立ち台に上がった与座海人投手(27)は「温かい声援、ありがとうございました。来年もここでやりたいので、大人の方、よろしくお願いいたします」と言った。

その笑顔に、総音量90デシベルを超える指笛が鳴り響く。スタンディングオベーション。沖縄は温かく、応援団長が何人もいた。

敗れた初戦、平良海馬投手(23)がピンチを迎えた。赤いTシャツの少年が立ち上がり「平良、頑張れ~!!」と勇気を振り絞って叫んだ。拍手と歓声に周囲の大人たちが加勢した。外崎修汰内野手(30)が適時打を放つと、少年はカチャーシーを踊っていた。球団マスコットのレオたちも踊っていた。

チャンスが広がると、誰もが立ち上がって両手を広げたり、大きなリアクションで喜んだ。キャンプ銀座とはいえ、数少ないプロ野球公式戦。ビールを買い求め、3つ4つと持ち運ぶファンたち。売り子さんは2人1組になっておにぎりや唐揚げを、声を張りながらじゃんじゃん売っていく。活気に満ちあふれた。

平井克典投手(31)が救援のマウンドに上がった。別の少年が叫ぶ。「平井頑張れ!! 三振取れ」。兄なのか、隣の少し大きな少年が「落ち着いて~」と叫ぶ。弟(?)の方が「平井、落ち着いて頑張れ!! 落ち着いて三振取れ!!」と引用する。平井の登板中、2人は何十回も連呼し、マウンド上のヒーローは2三振を奪った。

1人1人の声援は、さすがにマウンドまで聞こえてはいないだろう。でも、平井はうれしかった。「久しぶりに沖縄で投げたんで、すごく楽しかった。楽しかったっすね~。沖縄独特の。いざっていう時は集中するから聞こえないけど、歓声も指笛もすごくて」。楽しかったっすね~、と情感を込めた。

楽しかった-。取材する側も同じだ。いつにない高揚感。国際通りでかりゆしシャツを買った。選ぶだけで楽しい。襟付きの正装だから、着た。「おっ、合わせてきた感、あるね」とゲラゲラ笑う首脳陣。練習を終えて向こうからやってきた某レギュラーは、私の横に来て「沖縄感。」とひと言つぶやき、軽やかにロッカーへ戻っていった。

2戦目は、1戦目よりも少年ファンが多かった。ネット裏に陣取る彼ら。魔曲として知られる「チャンステーマ4」で右翼席の西武応援団が盛り上がっても、いざ知らず。空気が入ったメガホンをたたきまくり、自分たちのチームで普段使っているような応援歌で盛り上げ続けた。

蛭間拓哉外野手(22)がチャンスで打席に入った。「ヒ、ルー、マ」の抑揚で大音量の指笛を鳴らす男性ファン。その音色がドラフト1位ルーキーを押した。「他の球場とはまた違う雰囲気で、沖縄県民の皆さんの温かさをすごく感じて」。白い歯が輝く。

夜8時を過ぎれば、日が沈んだ西の空は“マジックアワー”に。群青とほのかなオレンジ色が織りなす素晴らしい光景に気付いている人は、あまりいない。みんな3時間少々のプロ野球の世界に夢中だ。

にぎやかな内野席を離れ、芝生の外野席へ。こちらも懸命に声を出し、応援する。靴を脱いで跳びはねる西武ファンもちらちら。「かっ飛ばせ~、中村!! オリオンビールで、はい乾杯!!」と語呂もいい。右翼ポール下でのんびりと試合を見ていると、小学生3人組がやって来た。どうやら、関係者しか入れない場所に落ちているファウルボールを狙っているらしい。

「取りに行っていい? 行っていい?」

懇願するような目で私を見たり「万波選手~、応援していま~す!! ボールくださ~い!!」と叫んだり。いつしか彼らは、私が持つスコアブックに「何それ? 何それ?」と興味を抱く。スコアブックだよ。「あ、記録か。僕たちもチームで付けてるよ」。野球の島、沖縄。DNAはどんどん受け継がれていく。

外崎に続き、中村剛也内野手(39)もタイムリーを打ち、第2戦は西武が勝った。指笛に乗っての一打。「うーん、まぁ、1本打てて良かったですね」。いつものように、ベテランはシンプルに話す。

「歓声ですか? まぁ、打席では集中してますからね」。でも、ベンチからでもよくスタンドを見ているような人だ。

「あっ。」

帰りのバスに乗り込もうとして、思い出したように私の方へ振り返った。

「でも、なんか、気持ち良かったっすね~」

そうですね-。長く過酷なペナントレースの最中、琉球の温かさに包まれた獅子たち。余韻と土産と、少しばかりの日焼けを持ち帰る。【金子真仁】