ソフトバンク井上朋也内野手(20)は“決意”の夏から5年が過ぎた。
花咲徳栄(埼玉)の1年生として出場した18年夏の甲子園。敗れた横浜(神奈川)戦、2点を追う最終回2死満塁で最後の打者になった。ボール球を空振り三振した。
「ごめんなさい」
号泣する井上は、先輩から「大きくなって、来年も再来年も、おまえが連れてこいよ」と託された。言葉の主は当時の3年生、現在日本ハムの野村佑希内野手(23)だった。
「大好きです」
宿舎に帰り、最後のミーティングを終えると、照れながら憧れの思いを口にした。「野村さんを越したいです」と誓った。
自身の高校野球はコロナ禍に見舞われた。それでも鍛錬に励み、同校初のドラフト1位指名を勝ち取るまでに成長した。
プロ3年目の今季、ついにプロ1号本塁打も出た。分厚い選手層のソフトバンクで、ようやく憧れの先輩が活躍する1軍の舞台にはい上がった。
17日は埼玉・加須市で行われた花咲徳栄OBによる「加須きずな野球教室」が行われ、久しぶりに笑顔を交わした。「今年どうやった?、みたいな」。
ともに20代前半ながら、やがてはリーグを、球界を代表する右打者に成長していく可能性を秘める。
「前までは憧れの存在でした。でも今はもう、越えていかないといけないので」
遠かった背中は。
「ちょっと、背中は見えてきてるんで」
同校の岩井隆監督は井上が入学した直後、醸し出す雰囲気に「ゆるキャラみたいだな」と言っていた。5年たって、風格も出てきて、この日は小学生たちをぐいぐい引っ張った。
「行ける? 行ける? よしもう1本行こう!!」
頼もしい兄貴分のように駆けだした。【金子真仁】