沖縄・宜野座のサブグラウンドに足を踏み入れ、思わず「あれっ」と独り言を口にしてしまった。

日刊スポーツ評論家でもある鳥谷敬氏の阪神臨時コーチ最終日となった2月8日。レジェンドOBが2日ぶりの佐藤輝明マンツーマン指導で初歩的なアプローチを取ったからだ。なぜ指導法を変更したのか? 数日後、素朴な質問をぶつけると、鳥谷氏は「少し反省点があったので」と教えてくれた。

指導初日となった同6日は特守メニュー終了後、55分間に渡って佐藤輝を密着指導していた。「ステップを踏めず、足を使えていないように見えたので、ボールへの入り方について伝えました」。この日はノックをさばいて一塁送球するメニューを選択していたのに、中1日で今度は練習レベルを少し落とした。鳥谷氏が手で転がしたゴロにステップを踏み、一塁方向に送球する反復練習。見ている側からすれば不思議に感じたが、指導側にはもちろん意図があった。

初日、鳥谷氏は佐藤輝が捕球時に体を引く形になっていると感じ、捕る際に勢いをつけて送球方向に向かう動作を「取りに行く」という表現で伝えた。ただ、後輩には「取りに行く」と体が突っ込むイメージがあり、感覚にズレが生まれてしまった。「変化を感じさせられなかったのは教える側のチョイスミス。本当に申し訳ないことをした」。そこで3日目はあえてステップの仕方を染みこませる基礎練習に戻したそうだ。

鳥谷氏は臨時コーチ2日目、2軍キャンプ地の沖縄・具志川で若虎指導にも汗を流した。20歳前後の選手たちと向き合った経験も、3日目の佐藤輝指導に生きたのだという。「感覚を伝えるだけで理解する選手もいれば、実際にドリルを課して実践してもらった方がのみ込みが早い選手もいた。2軍で指導の引き出しを増やせたことで、佐藤選手への伝え方に変化をつけられたのかもしれません」。

21年限りで現役を引退した鳥谷氏は現在、社会人チームのパナソニックでコーチを務めている。今春は初めて2軍キャンプでも臨時コーチを任され、あらためて「もっと指導法にバリエーションを持たないといけない」と痛感したそうだ。

「伝えたいことをどうやって理解してもらおうかと考える中、反応を見ていると、教える側と教えられる側でギャップを感じるケースも少なくなかった。自分の感覚だけで教えると、何も理解できないまま終わってしまう選手も出てくる。相手によって伝え方や言葉に違いを出して、選手たちがやり方を選択できるようにしなければいけない」

現役時代は球界屈指の練習量で知られた鳥谷氏。立場は変われど、座右の銘にしてきた「向上心」は色あせない。【野球デスク=佐井陽介】

【阪神】佐藤輝明が鳥谷臨時コーチからマンツーマン特守「基礎、リズム感を大事にしてやれたら」