岡田監督の早大時代の同期、巨人や近鉄でプレーした島貫省一氏(66)には、今も覚えているシーンがある。最上級生になり、ともに繰り出した夜の町。若かりし岡田監督は言った。「将来はプロ野球の監督になるんだ」。聞いたのは1度や2度ではない。「WASEDA」のユニホームの時から、はるか先の未来を見ていた。

酒を片手にしても、常に野球の話。「『次の試合、相手が何球目にホームランを打つ』とか、考えていることが1人だけ違う」。野球談議は熱を帯び「今だから言えますけど、寮の門限をやぶって…」と笑った。

「岡田がいたからプロに行けたと思うんです」と島貫氏は言う。入学直後、レギュラー組が九州遠征中に行われた打撃練習。岡田監督が2年生投手から放った打球は、バックスクリーンを超えて場外へ。「高校を卒業したばかりの選手が…。4年間であんな打球を見た記憶はないです」。度肝を抜かれた姿を追い、同じプロの世界に飛び込んだ。

現役時代は「伝統の一戦」で顔を合わせれば「元気か?」とよく言葉を交わした。早大の同期会は今も毎年続く。いつも中心にいた主将は、背中で引っ張るタイプ。「自分の数字よりチームに貢献することを考えていた。将来監督をやりたいというところにつながっていたかもしれないですね」。勝利が最優先のプレーは、指揮官としてのタクトに生きている。開幕カードは「伝統の一戦」となったが、島貫氏は「岡田がいる間は阪神を応援しますよ」ときっぱり。厚い信頼を受ける姿は今も同じ。20代の頃に夢見た監督として、今年もチームを頂点に導く。【磯綾乃】

◆島貫省一(しまぬき・しょういち) 1957年(昭32)7月24日、福島市生まれ。福島商から早大。4年時には岡田監督とクリーンアップを組み、ともに日米大学選手権に出場。79年にドラフト外で巨人に入団。84年に近鉄にトレード移籍し、85年に現役引退。