「日日是好日」-にちにちこれこうじつ、と読む。先月亡くなった樹木希林さん(享年75)の主演作が13日、公開された。

来年、自身が企画を手掛けた「エリカ38」の公開が控えているから、遺作1本前の映画ということになる。

個性が強いからだろう。いつも漠然と樹木さんらしい「おばあさん」を思い浮かべているが、振り返ってみれば、それぞれの役の個性、多様な演じ分けに改めて感服する。「万引き家族」(18年)のしたたかさ、「モリのいる場所」(同)のできぱき、「わが母の記」(12年)のぼけ…。そして今作では、そこはかとないたたずまいを見せてくれる。

まじめで理屈っぽい典子(黒木華)は、母の薦めでお茶を習い始める。師匠となるのが近所で茶道教室を開く武田先生(樹木)。同い年で常に典子の1歩先を行く利発ないとこ、美智子(多部未華子)も一緒だ。映画はそれからの24年-就職の挫折、失恋、大切な人との別れ-を茶室とそこからのぞく四季の移ろいで映していく。

「茶道とは無縁だった」と明かす大森立嗣監督が、森下典子さんの原作エッセーに感動した思いそのままに、作法、折々の色彩を手探りし、ていねいにひもといていく。造形の技ばかり気になっていた和菓子が背負っている季節、背景がすっと入ってきて思わず肯く。典子の気持ちを映したり、鎮めたりするお茶の世界がいつの間にか染みてくる。心地よい。

そのお茶の奥深さを体現するのが樹木さんの役回りだが、人形のように収まった正座姿、いかにも達人らしい手さばきの微妙な速度…この説得力は何なのだろう。実は茶道は未経験だったというから重ねて驚く。撮影直前の短期間に集中して茶道の指導を受けたのだそうだ。吸収力も最後まで衰えなかったようだ。

不器用な典子を包み込むように諭し、美智子の理路整然をひと言でかわす。先生が時折のぞかせる人間くさい部分に樹木さんの素顔が反映されているような気がして、それがまた楽しい。

きっと本人は、いつも通り作品を楽しんで欲しいと思っていたのだろうが、「死」を意識した上でのこの落ち着き。惜しい人を亡くしたのだという思いが何度も突き上げてきた。

初共演の黒木と多部も、くすっとさせる笑いの「間」を引き出されているように思う。

1年を等分した二十四節気にあるそれぞれの風情。気づかされることが多い作品でもある。黒木の父親役の鶴見辰吾も少ない出番で印象を残している。まるで樹木さんを手本にしたように、年齢を味方に付けた好演だ。

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「日日是好日」の1場面 (C)2018「日日是好日」製作委員会
「日日是好日」の1場面 (C)2018「日日是好日」製作委員会