アメコミ・ヒーローの屈折度にはさまざまなレベルがあるが、年齢を重ねると、このくらい極端な方が楽しめる。

27日公開の「ヘルボーイ」は、62冊の原作のうち「闇が呼ぶ」「百鬼夜行」「疾風怒濤」の3部作を中心にしながら、その他の作品の要素を取り込み、ヘルボーイ誕生のいきさつもしっかりと盛り込まれた「コンプリート版」だ。25年間この作品を書き続けている原作者のマイク・ミニョーラが製作総指揮で関わり、すっきりと1本の映画にまとめている。

悪魔の子として生まれながら、科学者を父親代わりに育ったヘルボーイは「超常現象調査防衛局」のエージェントとして人間界を守っている。アーサー王の時代からよみがえった魔女ニムエとの戦いが今回の本筋だ。

深紅の全身、折り取られて切り株状になった2本の角、石のように硬くなった巨大な右腕…ヘルボーイの外見はまるっきり悪役だ。怪力はずぬけているが、不器用で人情にもろく、守ってあげているはずの人間たちからバカにされ、常にダークサイドからの誘惑にさらされる。スーパーパワーの裏のもろさはどのヒーローも抱えていることだが、ヘルボーイの異形とダメっぽい人間くささは頭1つ抜けている。

どちらかといえばハンサムガイが襲名するヒーロー役もヘルボーイに関しては異色俳優が引き受けてきた。ギレルモ・デル・トロ監督の04年度作品では、テレビ版「美女と野獣」の野獣役で知られたロン・パールマン。今回も「イコライザー」の怪演が記憶に残るデビッド・ハーパーといずれも「怪優」と呼ばれる人が引き受けている。

当のハーパーは光栄に思ったという。

「前作のロン・パールマンと張り合うようなことはしたくなかった。役に対する解釈は人それぞれだからね。ヘルボーイは変人だ。人間にバカにされ、侮辱される。僕もそう感じることがあるので共感できるよ。完璧に『正常な』人間なんて、実はこの世の中にはいない。だから、僕も、多くのファンも彼にひかれるんだよ」

特殊メークの内側から、悲しさや怒りがじわじわと伝わってくるのは、そんなハーパーの思いがにじんでいるからだろう。

共演者もキャラクターの個性を思いっきり立てている。魔女ニムエ役のミラ・ジョボビッチはコミックから抜け出したような存在感。父親代わりの科学者にふんするイアン・マクシェーンは「ジョン・ウィック」シリーズの元殺し屋役同様に貫禄タップリだ。

今作のパートナーとなるベン・ダイミョウ少佐役は韓国出身のダニエル・デイ・キム。「24」シリーズのゲストなど、記憶に残る風貌だが、今回も「いかつい東洋人」の典型を目いっぱい演じている。

6世紀の英国、ナチス…とアメコミ・ダークサイドのルーツをしっかりと踏み、異色の作品は実はもっともアメコミっぽく。肉汁ジュワジュワのハンバーガーを食べた後のような満腹感があった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)