第95回アカデミー賞授賞式がいよいよ25日に開催されます。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で当初予定していた2月28日から2カ月近く延期されての開催となります。

コロナ禍で迎える初めての映画の祭典は、どのようなものになるのでしょう。感染予防対策のため、例年通りの内容での開催はできないことから史上初めてずくめの授賞式になると予想されます。それでも、この1年間はほぼ全ての授賞式がバーチャルで行われてきたハリウッドで、会場に各候補者やプレゼンテーターらセレブを集めて対面式で行われることは朗報です。どんな授賞式になるのか、見どころや注目作品と併せて紹介します。


●授賞式はバーチャルなしの対面式

コロナ禍のため、テレビ界最高の栄誉とされるエミー賞に始まり、ゴールデン・グローブ賞や全米映画俳優組合(SAG)賞などこの1年間ほぼすべての授賞式がリモートによるバーチャルでの開催となっていましたが、アカデミー賞は対面で実施されます。現在のロサンゼルス(LA)はコロナの感染状況が落ち着いており、スポーツ観戦や小規模イベント、コンサートなども再開されつつある中、感染予防策を講じた上でセレブたちが一堂に会する初めての授賞式となります。

例年はハリウッドにある3400人収容のドルビー・シアターで行われてきましたが、密を避けるためにドルビー・シアターに加えてダウンタウンのユニオン駅にも会場を設け、2カ所をつないでの異例の授賞式となります。参加者は全員が検査を受けた上で、招待人数を減らして規模も縮小して行われますが、候補者は他の授賞式のようにバーチャルでの出演を選択することはできません。しかし、依然として感染拡大が続き、不要不急の渡航が禁じられている欧州からの参加者への配慮から、ロンドンとパリにも中継拠点を設けることが発表されています。一方で、授賞式後に毎年行われている恒例の公式アフターパーティー「ガバナーズ・ボール」は今年は中止が決まっています。


●司会者は?プレゼンテーターは?

一昨年から2年連続司会者不在で行われてきたアカデミー賞は、今年も司会者不在の授賞式になります。プレゼンテーターが司会の代わりにローテーションで式を進行する役目を果たすことになりそうです。コロナ禍でLAでは映画館が1年以上にわたって閉鎖されるなど映画界にも大きな影響があった1年でしたが、「全候補者に対面で、そして世界の何百万人もの映画ファンのために、安全で楽しめる夜を提供するよう努めています」と主催者側はコメントを発表しています。

一方で、プレゼンテーターには豪華スターの名前が並んでおり、現在分かっているだけでも昨年の受賞者であるホアキン・フェニックスやブラッド・ピットをはじめ、ハリソン・フォードやリース・ウィザースプーンらが登壇予定です。

ブラッド・ピット(2019年9月13日撮影)
ブラッド・ピット(2019年9月13日撮影)

●レッドカーペットは?

バーチャル授賞式では、候補者が自宅からパジャマやスウェットなどラフな格好で参加する姿も見られましたが、アカデミー賞のドレスコードは「フォーマル」と発表されており、久々に着飾ったセレブたちの姿を見ることができそうです。授賞式前のレッドカーペットも復活しますが、こちらも規模を大幅に縮小し、ソーシャルディスタンスの確保など感染対策を講じた上で行われます。そのため例年のように長い赤じゅうたんを「ウォーリーを探せ」状態で大勢のセレブたちが同時に歩く光景は見られませんが、コロナ禍ならではの新しいレッドカーペットのスタイルを示すことになるでしょう。そして今年は参加するセレブたちのドレスはもちろん、マスクにも注目が集まりそうです。


●今年のノミネート作品は?

最多10部門にノミネートされているのは、デビッド・フィンチャー監督がメガホンを取った「Mank/マンク」。作品賞、監督賞のほか、ゲイリー・オールドマンが主演男優賞、アマンダ・サイフリッドが助演女優賞にノミネートされています。続いて6部門にノミネートされているのが、クロエ・ジャオ監督の「ノマドランド」とリー・アイザック・チョン監督の「ミナリ」。両作品とも作品賞、監督賞に名を連ねており、「ノマドランド」からはフランシス・マクドーマンドが主演女優賞、「ミナリ」からはスティーブン・ユアンが主演男優賞、ユン・ヨジョンが助演女優賞にそれぞれノミネートされています。

アマンダ・サイフリッド(2020年1月15日撮影)
アマンダ・サイフリッド(2020年1月15日撮影)

●俳優部門は史上最多となる9人が有色人種、女性監督2人が候補入りも史上初

2016年のアカデミー賞は俳優部門にノミネートされた20人全員が白人だったことから「白すぎるオスカー」と批判されたこともありましたが、今年はおよそ半数を有色人種が占め、映画芸術科学アカデミーが行ってきた改革による多様性を反映した結果になっています。6人の黒人に加え、アジア系アメリカ人として初の主演男優賞候補となったユアンやパキスタンの血を引くリズ・アーメッド(「サンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」)も候補入りを果たしています。アーメッドは、イスラム教徒として史上初めて主演男優賞にノミネートされたことでも話題です。

また、今年は監督賞でもジャオ監督と「プロミシング・ヤング・ウーマン」のエメラルド・フェネル監督の女性2人がノミネートを果たし、史上初めて複数の女性が同時に候補入りしています。最有力候補と目されるジャオ監督が受賞すれば、アジア系女性監督としては史上初の快挙で、女性監督としても「ハート・ロッカー」(09年)のキャスリン・ビグロー監督に次いで史上2人目のオスカー獲得となります。


●注目の作品は?

作品賞の最有力候補は間違いなく、「ノマドランド」でしょう。リーマンショックの影響で家を失って車上生活をしながら季節労働者としてノマド(遊牧民)のようにキャンピングカーでアメリカ各地を転々とするマクドーマンド演じる女性が主人公のノンフィクション小説が原作のドラマです。本物のノマドたちも出演しており、映画でありながらドキュメンタリー要素も備えており、コロナ禍によって多くの人が家を失ってホームレスになっている中で現代のアメリカ社会が抱える問題も浮き彫りにしています。日本では3月26日から劇場公開中です。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)