劇団四季のファミリーミュージカル「カモメに飛ぶことを教えた猫」が先日、幕を開けた。四季にとって26年ぶりのファミリーミュージカルで、初日を観劇したが、期待は裏切られなかった。

四季といえば、「キャッツ」「ライオンキング」「オペラ座の怪人」などブロードウェー、ロンドン発の海外ミュージカル上演で知られるが、そのベースにあるのは、子供たちを対象にしたファミリーミュージカルだった。日本ミュージカルの黎明(れいめい)期の64年、日本生命が子供たちに夢と希望を抱いて育って欲しいとの願いを込めて、日生劇場で子供たちを無料招待する「ニッセイ名作劇場」をスタートさせた。その制作を浅利慶太氏率いる劇団四季が手掛けた。

第1弾は寺山修司氏作のファミリーミュージカル「はだかの王様」で、その後も「王様の耳はロバの耳」「イワンのバカ」で寺山氏、「どうぶつ会議」で井上ひさし氏を起用するなど、今も上演されるファミリーミュージカルを生み出し、その数は30作を超えている。しかし、93年以降、新作ファミリーミュージカルが途絶えていた。

今回、26年ぶり新作ファミリーミュージカルに四季も力を入れた。チリの作家ルイス・セプルベダの同名児童小説をもとに、瀕死(ひんし)の母カモメから卵を託された猫のゾルバが、彼女と交わした「ヒナに飛ぶことを教えて」など3つの約束を果たすため、仲間の猫たちと力を合わせて奮闘する姿を描いた作品。演出に俳優としても活動する山下純輝氏を起用し、脚本は四季のスタッフたちが作り上げた。結果は、四季のファミリーミュージカルの歴史に、新たなレパートリーとして何回も上演してほしいと思わせる出来だった。

四季のファミリーミュージカルは「命の尊さ」「愛と勇気の素晴らしさ」「友情や助け合いの大切さ」などをメッセージとして織り込んできた。この舞台でも、自分を猫と思って、飛ぶことができない、ひなのフォルトゥナータに飛ぶことを教えようとするゾルバら猫たちの姿に「友情や助け合いの大切さ」、怖さを振り払い、勇気を持って1歩踏み出そうとするフォルトゥナータの姿と、彼女を励ますためにみんなが歌う「自分を信じて」のナンバーに「勇気の素晴らしさ」が、見る者に伝わってくる。

来年まで全国を巡演するが、首都圏での公演は数少ない。東京で長期公演を行い、子供だけでなく、大人にも見てほしい舞台になっている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)