7月31日、テレビの画面を通してだけれど、保釈された市川猿之助被告の姿を約3カ月ぶりに見た。5月初め、明治座で昼夜の「市川猿之助奮闘公演」で文字通り、宙乗り、早替わり、立ち回りに奮闘する姿を見た2週間ほど後に「心中事件」が起こった。その後、逮捕・起訴され、面会に訪れたいとこの市川中車(香川照之)に「もう表舞台には出ない」と言ったという報道もあって、かなり疲弊している姿を想像していた。しかし、100人以上の報道陣の前に現れた猿之助被告は、髪が伸びてオールバックで、少し白髪もあったけれど、そのまなざしにはある種の力があったように思う。6秒ほど深々と頭を下げ、無言でワゴン車に乗り込み、そのまま都内の病院に入院したという。
本来なら、猿之助被告は6月の「傾城反魂香」、7月の「菊宴月白浪」、8月の「新・水滸伝」で歌舞伎座に出演しているはずだった。抜けた穴は6月には中村壱太郎が、7月には中車が、そして8月は中村隼人が埋めている。「新・水滸伝」は7日夜に見るけれど、すでに見た「傾城反魂香」でも「菊宴月白浪」でも、猿之助被告だったらという思いが頭の片隅から消えなかった。いるべき人がいない喪失感は、11年前に57歳の若さで中村勘三郎さんが亡くなった直後にも感じたものだった。
秋にも裁判が始まるのだろう。裁判がどのくらい続き、どういう判決が出るのか。保釈から2日後に、演出・出演する予定だった来年2、3月のスーパー歌舞伎2「鬼滅の刃」の上演見合わせが発表されたが、「公演中止」という表現ではなかった。いつか仕切り直しで上演が実現する時、出演者、スタッフの中に「猿之助」という名前が連なることがあるのだろうか。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)




