昭和が終わる直前の広島を舞台に、警察とやくざの攻防を描いた。ベテラン刑事の大上(役所広司)は、やくざをなだめてすかして、ある男の失踪事件を追っている。新人刑事の日岡(松坂桃李)は、大上のやり方に反発しながらもついていくしかない。

 とにかく熱くて、湿度100%。乾いたスタイリッシュなやくざ映画とは対極だ。暴力、金、ハニートラップ、何でもありの大上のダークヒーローぶりは魅力的。やくざ相手に立ち回る時、ふと「○○じゃなーの」と出る方言。物語が進むにつれ分かってくる強固な信念。清廉でも潔白でもないところは生々しい。大上を生き生きと浮き上がらせ、感情を寄せられる余白をつくったのは、役所だからこそだ。

 松坂も、新人刑事らしからぬじっとりとした目をする日岡を練り上げた。最近は底知れない感じの役がよく似合う。

 「仁義なき戦い」に代表される、実録ものと呼ばれるやくざ映画を数多く手掛けた東映。当作をきっかけに、実録もの再びとなるかどうか。

 個人的にはダークヒーローは大好き。血が通った男たちをもっと見たい。【小林千穂】

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