演歌といえば、「ちょっと古い」というイメージを思い浮かべる人がいるかもしれません。先日、インタビューした歌手神野美伽(53)は演歌の枠組みにとらわれない行動派です。5年前から米ニューヨークのジャズクラブなどで歌い始めました。そこには演歌の可能性を広げたいという強い思いがありました。

10代でデビューし、「男船」「浮雲ふたり」などのヒット曲にも恵まれ、歌に舞台に活躍を続けてきました。ただコンサートの観客の大半は60代以上。「演歌は自由でかっこよくて気持ちいいものなのに、20代、30代の人に見に来てもらうにはなかなか難しいことなのかな」。若い世代に伝えられないことを悩み、演歌の先細り感に危機感を抱いてきました。

転機は5年前です。「私が行く場所を変えればいい」。演歌のすばらしさを伝えたいのなら、まず自らが動く-。

ニューヨークの老舗ジャズクラブなどで演歌を歌い始めました。「無法松の一生」「悲しい酒」「りんご追分」。演歌だけではなく、「ブギの女王」と呼ばれた笠置シヅ子さんの「ラッパと娘」などを披露してきました。パワフルな歌声は現地の観客たちの度肝(どぎも)を抜きました。

神野の歌に興味を持ったジャズコーラスグループ「マンハッタン・トランスファー」の女性ボーカル、ジャニス・シーゲルとの交流も始まり、「リンゴ追分」をいっしょに歌うこともありました。

「音楽って、言葉が違ってもアーティスト個人と個人の思いが通じたら、いっしょに歌えるんですよね」。日本でもロックフェスなど、これまでとは違う舞台への出演依頼が増えました。

「米国に行ったのは演歌にはもっと可能性があると思ったから。もっと言うと、演歌という言い方ではなく、日本の歌なんです。米国に行ったことで私の歌っている場所も変わった」

ジャパニーズ・ソウル。もちろん、演歌の基本は忘れることはありません。ただ、活動の場所が広がったことで、演歌の感じ方も変わりました。

「ずっと歌っておられる演歌の先輩方とステージがとっても新鮮です。演歌のバンドのサウンドが、これまでとはまったく違うものなんです」

今年も挑戦は続きます。笠置シヅ子さんの半生を歌、芝居でつづる音楽劇「『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~」(11月23日~12月1日、クール・ジャパン・パーク大阪・TTホール)に臨みます。

「できるだけシンプルに芝居をして、歌っていく音楽劇は初めてです。バンドの使い方も工夫して、感覚的には新しいものになると思う」

大阪府貝塚市生まれ。型にはまらない伸びやかな関西人の気質が「挑戦」を後押ししています。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)