1つの作品でも表情がコロコロ変わる、まるでサイコロのようだ。女優山田杏奈(21)。木村拓哉主演のテレビ朝日系連続ドラマ「未来への10カウント」(木曜午後9時)に出演している。2011年から、人生の半分以上を芸能界で過ごしてきた。今や“ネクストブレーク女優”の筆頭候補だ。【佐藤勝亮】

★高校生役うれしい

透明感あふれる21歳は、1つの作品で別人かのような表情を見せる。本人は「よく言っていただきます。何でですかね…私もわからないですけど、多分、髪形とかメークで変えてもらっているからですよ」とケロッと笑う。

「未来へ-」は、人生のどん底からスタートする主人公・桐沢祥吾(木村)を中心に描かれる世代を超えた青春群像劇。山田は、桐沢がコーチを務めるボクシング部唯一の女子部員・水野あかりを演じている。

「ロープ跳びをしているところから芝居が始まったり、毎日本当にヘトヘトになって家に帰っています。これまでスポーツはあんまりやってこなくて。本当に今のボクシングが、人生で一番ちゃんとスポーツをしているんじゃないかっていうくらいです(笑い)」

木村とは初共演だ。

「すごくいろいろ教えてくださいます。『こうしたらいいんじゃない?』『ここに立った方が、もしかしたらやりやすい?』とか、提案もしてくださったり。1つのシーンをどうしたら良く、面白くできるかを、すごくストイックに考えていらっしゃいます。本当にさすがだとしか言いようがないくらい、すごいいい人だなって思います。現場に入って、日々学ばせていただいています」

これまで、女子高生役が多い印象だ。7日スタートのNHK連続ドラマ「17才の帝国」(土曜午後10時)も高校生のヒロイン役だ。

「まだ若く見られているのはすごく良いことなのかな。高校生をやらせてもらえること自体は、すごくうれしいなって思っています。でもやっぱり、21歳なので…『よっこいしょっ!』って、ギアを入れなきゃいけないのがあるんですよ(笑い)。高校生の若さ、勢いってあの時にしかないじゃないですか。だからそういう高校生特有の勢いは、忘れないようにしなきゃなっていつも思ってやっていますね」

★価値観1回捨てる

山田がこれまで演じてきた役は、バックグラウンドを持った“難役”が多い。演じる上で核にあるのは。

「自分の価値観だけでガチガチに固めず、柔らかくいたいなと思っています。自分の価値観を1回捨ててみたら、ちょっと面白いんですよ。『当たり前だよね?』と思わないように。雨の日に傘を持たないで歩く事も、芝居じゃないとなかなかやらないじゃないですか(笑い)。そういうのはすごい変な仕事だなって思いつつ、面白いなって思っています」

これまでで最も難しかった役は、21年の主演映画「ひらいて」の木村愛。共演の芋生悠(24)とは、ラブシーンも演じた。

「今もあんなに分からなかった役はないなと思っています。『内に秘めている』って、何を内に秘めているんだろうと思ったり。監督にも『分からないです』って言いながら演じました。でも『分からないままの見せ方で良いです』って言ってくださって。結局は、役で演じると言っても他人。他人をどれだけ理解できるかって、すごく難しいなと思った瞬間でした」

そもそもゲーム機「3DS」がなかったら、女優山田杏奈は存在していなかったかもしれない。11年に少女漫画誌「ちゃお」のオーディションでグランプリに輝き、「ちゃおガール」として芸能界入り。その商品が「3DS」だった。

「『将来の夢はお花屋さん』って言っていた時期でしたね。でも、10歳の山田杏奈さんは3DSが欲しかったんですよ(笑い)。人前に出ることもそんなに好きじゃなくて、事務所のレッスンも本当に毎回憂鬱(ゆううつ)だった時期もありました。でも今は、それがすごく楽しい仕事になっているから、人生何が起こるかわからないなーって思っています」

不純な動機だったかもしれないが、生き残りが厳しい芸能界で10年以上活躍してきた。

「やめたいなって思ったことはないです。あんまり考えたこともなかったです。多分この仕事しかできないって正直今、思っちゃってるし。3DSから入ったけど、なんだかんだお芝居がすごい好きなんだなって思いますね。仕事を10年続けさせてもらえるって、自分の力だけじゃないですし、本当にすごいことだなって思います」

★挫折も未来への糧

女優という仕事に就いていなかったら、「かっこいいから」という理由で弁護士を目指していたという。周りを見れば、同級生は大学4年の代だ。

「この間友達と久しぶりに会ってお茶をしたら、『就活だよ、今』って言われて『えー!』って(笑い)。でも今までは大学の話が多くて分からない部分も多かったんですけど、仕事だったら、多分いろんな世界の話を聞けるから本当に楽しみ」

今後の役作りの材料にもなりそうだ。

「(今後は)やっぱり社会人役をやってみたいですね(笑い)。私自身もいろんな世界に触れたいなって思いますし、役としてもいろんな引き出しを出していきたいなって思います」

11月には、舞台にも初挑戦する。

「ものすごく緊張しています。映像の表現しかやったことがないので、1回舞台で『うわー!』ってなると思うんですよ。多分、へこむと思うし挫折もすると思います。でもそれを乗り越えて一段階、もう一段階、新しい表現ができるようになったらいいな。そういう時間にしようとすごく思っています」

最後にヒーローを問うと、「犬でもいいですか?」と、まさかの回答が。

「男の子なのでヒーローということで(笑い)。私が反抗期で2個下の弟や、親ともすごくけんかしている時に家に来てくれて。家の中がすごい平和になりました。今も実家に帰る時に『家族に会いたいから』って、恥ずかしくて言いにくいので『ノア(愛犬)に会いたいから帰るね』って言ったり。本当に家族をつないでくれているなって。離れて過ごしていても、私の1つの支えにもなってくれているので、彼をヒーローにしたいです」

そんな山田には、“ワンダフル”な未来が待っているはずだ。

▼ドラマ「未来への10カウント」の川島誠史プロデューサー

初めてお会いしたのは、都内のボクシングジム。ドラマで演じるあかりの役作りのため、練習に訪れた際でした。会ってまず思ったのは、その目力の強さ。澄んだ真っすぐな目で一心不乱にサンドバッグに打ち込む姿は、「強くなりたい」と誰よりも願うあかりが一瞬で乗り移ったかのようでした。撮影が始まると、同世代の役者が談笑する中、時々一人で何かを真っすぐに見つめていることがあり、その姿がとても印象的でひきつけられます。その目は何を見て何を目指しているのか…今度聞いてみたいです。きっとすてきな未来がその先に待っているように思えます。

◆山田杏奈(やまだ・あんな)

2001年(平13)1月8日、埼玉県生まれ。11年「ちゃおガールオーディション」でグランプリを受賞し芸能界入り。16年「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」で映画デビュー。19年映画「小さな恋のうた」で「ヨコハマ映画祭」最優秀新人賞受賞。22年11月には初舞台「夏の砂の上」がひかえている。特技は習字。159センチ。