フットボール金融論 ~レアル・マドリードMBA卒・酒井浩之~

ACミラン再建の難しさ

これまではさまざまなクラブを財政面からのぞいてきましたが、このクラブを避けて通ることはできませんシリーズ第2弾です。今回は1990年代に世界最強チームとして名を世に知らしめたACミランにフォーカスしてみたいと思います。

元スペイン代表のホセ・マリ。ACミランに移籍した2000年、シドニー五輪にも出場
元スペイン代表のホセ・マリ。ACミランに移籍した2000年、シドニー五輪にも出場

このクラブはインテル、ユベントス、ローマなどとともにイタリアを代表するフットボールクラブで1899年に設立されました。インテルはミラノ市を2分するライバルチームで、そのダービーマッチは大きな盛り上がりを見せております。

デロイトの情報ですと、売り上げで約2億7700万ユーロを計上しており、日本円で約350憶円というところでしょうか。この売り上げはスペインでいうとアトレティコ・マドリードに近い値ですが、1990年代には世界最強リーグ、セリエAを牽引するトップチームで、その売り上げは現在の倍近くである5億ユーロ以上、つまり日本円で625億円以上ありました。

その主導を握っていたのがイタリアの元首相、シルビオ・ベルルスコーニ氏。第2次大戦後、1960年代から1980年代にかけて建設業と放送事業で財を成した企業家で、「イタリアのメディア王」と呼ばれ、国内の民放局を独占するほどの権力を保持していました。この権力・財力をもって冷戦後の1990年代に入ってから政治の世界に進出。ついには首相にまで上り詰めた人物です。

ミランはもともとファンで、86年に買収し、会長に就任するなど私財を投じて世界一のビッグクラブへと導いたとされます。しかしながら2010年代に入り、プラティニが進めてきたクラブ経営の健全化による“被害"を一番に受けたのがこのACミランであるといわれています。

主な原因は大きく2つです。1つは巨大な財政バックサポートによるどんぶり勘定経営。2つ目は選手のプランなき無謀な獲得であるといわれています。ただ1990年代初頭、レアル・マドリードをはじめ、ヨーロッパの多くのクラブが財政難に陥っていたことを振り返ると、基本的にはどのクラブも同じような状況だったのではないかと考えられます。

しかしここからどのように財政回復を行ってきたのかという部分がミランは異なりました。残念なことにオーナーは首相で完全に独裁政権状態。一例を挙げるとすれば、00年1月に獲得したホセ・マリでしょうか。Aマドリードから4000万ユーロ(当時のレートで約49億円)で獲得しましたが、ケガなどがあり3シーズンで5ゴールに終わりました。バブル世代?の独断と偏見による根拠なき投資が失脚を招いたといっても過言ではありません。

ですから、このような現実を目にすると、FIFAにしてみれば「ワンオーナーの私財に頼るほど危険な経営状態はない」という考えは決して外れてはいないように思います。

現在のミランはバックに確固たる財源が確保されておらず、そして過去の栄光はよき思い出状態。その中でレジェンドたちが集結し、何とかしようと試みているものの、1度失ってしまったものはそう簡単に取り返せないというセオリーもあります。

最終的にはスポーツ仲裁裁判所が決定を覆しましたが、昨夏にはUEFAからFIFAファイナンシャルフェアプレーに抵触したということで、ヨーロッパリーグへの出場禁止処分が出されたほどです。最も投資しなければならないとされているユース世代の若年層へのアプローチもままならず、再建まではまだまだ時間がかかりそうな雰囲気を感じます。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)

◆酒井浩之(さかい・ひろゆき)1979年8月24日、愛知県生まれ。幼少時よりサッカーに打ち込み、大学卒業後は広告代理店やスポーツメーカーに勤務。2015年3月にレアル・マドリード大学院スポーツマネジメントMBAコースに日本人として初めて合格。卒業後、レアル・マドリードへ同コースから唯一選出され入社。17年6月退社。現在はスペインと日本を行き来しながらスポーツビジネスのコンサルティングなどを手掛けている。

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