「INEOS(イネオス)」社の会長を務めるサー・ジム・ラトクリフ氏に対して、プレミアリーグがマンチェスターUの株式取得を承認したと報道されました。株式の25パーセントである約13億ドル(約1960億円)を取得するとのことです。
この取引に関しては、報道ベースではありますが、必要な規制当局の承認を得ることが条件とされており、リーグの理事会がクラブの所有権構造の変更に同意。それがリーグの独立監視委員会によって正式に承認されたということでした。プレミアリーグのオーナー憲章にも新たに署名された模様で、FA(イングランドサッカー協会)の承認を持って正式な契約完了となるようです。
フットボール部門の管理責任を委譲されるだけでなく、クラブの将来に向けて約3億ドル(約452億円)を追加投資する予定でもあることから、早くも夏の移籍市場においてチームの立て直しが期待されている状況です。どのような展開になるか楽しみです。
スペインのラ・リーガでは、資金不足が懸念されるバルセロナがカンプノウを全面改修に踏み切っております。新スタジアムにおけるチケットの値付け具合が気になるところですが、新たな収益を生み出すべく設備投資に走っています。この設備投資が新スポンサー獲得にどのような影響を与えるのか注目です。
今期好調のレアル・マドリードはサンティアゴ・ベルナベウをシーズン中に全面改装を行う決断をし、これがコロナ禍と丸かぶりする形になり、強制的に無観客試合となりました。結果的にこの間にスタジアム改築が想定以上に大きく進行。さらに営業面ではスタジアムの経営権をアメリカのスポーツ・イベント興行企業レジェンズに20%譲渡した代わりに約4億ユーロ(約640億円)を生み出すという大型契約に合意。25年という長期契約です。全面改装前のベルナベウが生み出す収入は1億ユーロ(約160億円)ほどだったことを考えると、大きな収益になります。
今まで試合が行われない約300日をどのように売上に繋げるかという課題がありました。レジェンズがどう具現化するかは、フットボール界において新たな事例となりそうです。さらには121年の歴史上初めてユニフォーム袖スポンサーも獲得が決定。2月4日の試合からHP(ヒューレット・パッカード)のロゴが入っています。これだけでも年間7000万ユーロ(約112億円)の新売り上げとなっており、夏の市場前に潤沢な資金確保がなされた形になりました。
フランスでもPSGが1974年から本拠地として使用してきたパルク・デ・プランスからの撤退が報道されています。こちらも改修工事を目論んだクラブと所有者であるパリ市と再三に渡って交渉が停滞。クラブサイドは完全なオーナーにならない限りパルク・デ・プランス改修工事への資金提供を拒否していたことから、新たな場所探しを行っているとの様子です。潤沢な資金源をバックにつけていることから新スタジアムを建設した方が早いとの声も多く上がっております。
日本ではガンバ大阪のパナソニックスタジアム、京都のサンガスタジアム、今治の里山スタジアムに続いて、サンフレッチェ広島が新スタジアムをローンチ。この後長崎の長崎スタジアムも控えており、新たな集客・ビジネスを目論む形が相次いています。世界的にもイタリアのミラノやイングランドのリバプールに新スタジアムが建設されるなど、スタジアム刷新による新たなビジネス機会の創出を狙った動きが活性化しています。
ツアリズムと結びつけた形での集客はもちろんのこと、新スポンサーの獲得、チケット値段の改定が一番の狙いです。クラブの売上増を見込んだ設備投資になり、収入増によってクラブは新たな選手獲得に予算を割くことができるようになるという好循環を目論むわけですが、この好循環を結果に結びつけることができるのかがポイントになることは間違いありません。あくまでも資金調達が可能なクラブが対応できることであって、限られたクラブだけが好循環に陥る危険性もあることから、全体管理をするリーグ側としては嬉しい部分がありつつも、うまく資金が回っていないクラブをどのようにサポートするか、こちらも注目して行きたいところであります。いよいよシーズンが佳境に入ってくる段階になりますのでクラブの経済的な動きも要注目です。
【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)