まだ四十路(よそじ)を少し過ぎたところなのに、最近物忘れがひどくなってきた。人や物の名前、耳にした曲のタイトルなどなど。何とか思い出そうとギリギリまで頭をひねるが、なかなか正解が出てこない。結局は自分の記憶力の悪さにさっさと白旗を揚げ、スマートフォンを取り出す。検索サイトにキーワードを並べれば、すぐ答えを教えてくれるからありがたい。

同じ検索方法で、理想の指揮官を探し出したクラブがある。11日、17日に開幕する日本フットボールリーグ(JFL)全16チームの監督が、都内のJFAハウスで会見を行った。そこには鈴鹿アンリミテッドのスペイン人女性のミラグロス・マルティネス新監督(33)の姿があった。

女性指揮官の誕生はJFL(4部リーグ相当)およびJリーグで初めて。どういう経緯で招くに至ったのか。鈴鹿の吉田雅一常務取締役に水を向けると、誠実に胸襟を開いてくれた。聞けば、想像していなかった理由が返ってきた。

「あてがなくて、Google(グーグル)で検索して、佐伯夕利子さんにたどりついて、ご紹介いただいたんです。私もサッカー経験者じゃなくて、ネットワークがなかったので」

吉田常務取締役によると、流れはこうだ。昨年12月。今季からJFLに昇格した鈴鹿は「事例がないということで挑戦したい」と、女性監督に白羽の矢を立てた。だが、いかんせん、つてがない。そこでGoogle(グーグル)を開き「サッカー 女性 監督」とキーワードを打ち込んで調査を開始。数多く出てきた名前の中から、Jリーグ理事でスペイン3部女子チームを指揮した経験がある佐伯氏にたどり着いた。

佐伯氏に紹介された4人と接触。13-14年シーズンの2部だったアルバセテ・バロンピエ女子チームを1部に昇格させた実績を誇るマルティネス監督と連絡を重ね、強い意志を確認して契約した。

1月14日に中部国際空港で初めてマルティネス監督と対面した際、満面の笑みを見てホッとしたという。吉田常務取締役は「(男子クラブの)女性監督はサッカーでは珍しいですけど、経営者では女性はいます。女性の社会進出も大事。どの企業も多様性がある。サッカー界における女性の社会進出の事例として成功し、道を切り開いていければと思います」と話す。

ただの話題づくりではない。壮大なロマンを実現させたいからこそ、マルティネス監督にクラブを託していた。

すでに新指揮官は初の男子クラブの指導、初の日本での生活をスタートさせている。海外での不慣れな日々に、苦労が多いのは想像に難くない。それでも明るく前向きな性格で、アパートで暮らしながらチームにも地域にも溶け込んでいる。日本食にも積極的にトライし「トンテキ丼とうなぎが好き。でも、みそ汁は苦手です」と笑い飛ばせるタフさとポジティブさがある。

「最初は男子チームが女性の監督を探していると聞いてびっくりしました。でも挑戦が楽しみだと思いました。小さい子どもを指導している時も感じていましたが、男の子と女の子を教えるのに変わりはない。大人も同じだと思います。フィジカルの違い以外はないと思います。自分にプレッシャーになりますが、先駆者になって勝利を目指すことと(女性監督を)志している人たちに少しでも勇気を持ってもらって、日本サッカーのサポートが増えれば。(鈴鹿は)初めてのJFL参戦で勝ち点を取るのも大事ですが、アクティブなサッカーを心掛けてたくさんの観客の方が訪れてくれるようなゲームを心掛けたい。一丸となって勝利をめざしていきたいです」

開幕戦は17日、MIOびわこ滋賀戦(午後1時、東近江)。検索サイトから始まった鈴鹿とマルティネス監督の挑戦の物語は、忘れずに見守っていきたい。【浜本卓也】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆浜本卓也(はまもと・たくや)1977年(昭52)、大阪府生まれ。03年入社。競馬、競輪担当から記者生活をスタート。格闘技、ボクシング、プロ野球と巡り、18年12月にサッカー担当に復帰した。

11日、JFL開幕戦で戦うMIOびわこ滋賀の中口監督(左)と健闘をたたえ合う鈴鹿アンリミテッドのミラグロス・マルティネス新監督
11日、JFL開幕戦で戦うMIOびわこ滋賀の中口監督(左)と健闘をたたえ合う鈴鹿アンリミテッドのミラグロス・マルティネス新監督