名古屋が今夏の移籍市場で世界が注目する才能、東京FW武藤を封じた。ミッションを完遂したのは背番号2。世界はおろかJリーグでも注目している人は少ないであろう雑草、DF竹内彬(31)だった。武藤の行く手にも、背後にも、いつもこの31歳がいた。「スピードに乗せないよう注意した」。ごく当たり前の対策を90分、体を張って泥臭くやり遂げた。

 武骨なDFにあるのはワザではなく、気持ち。プロ入り時に在籍していた秋田豊氏(日刊スポーツ評論家)に師事。闘将と呼ばれた元日本代表の魂を受け継いでいる。「ちょっと前に秋田さんから電話をもらって『いいプレーをしているな』と言ってもらったんです」。気を良くしていた。

 気持ちは熱くても、冷静だった。武藤をファウルで止めたのは1度だけ。場所はセンターサークル付近だった。「東京はセットプレーも強い。ゴール前でのファウルはダメだけど、あの場所なら」。20代のころからあった強い気持ちにもう1つ、経験という武器も加えた。「気持ちだけじゃないって、年を重ねて気付いたんです」。武藤のような輝きもワザもないが、これぞプロ。決してスマートでないが、この選手にはピッチに立ち、勝利を喜ぶ資格がある。【八反誠】