「マラドーナ、マラドーナ、マラドーナ…、来たぁ~、マラドーナ!」。伝説が誕生した1986年W杯メキシコ大会、テレビの実況席から「5人抜き」を伝えた元NHKアナウンサーの山本浩氏(67=法大教授)がマラドーナ氏を悼んだ。特異なキャラクターと驚異的な技術で世界に愛された同氏の魅力を口にした。

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サッカーの母国、イングランドの屈強なDFがバタバタと倒れていく。信じられない光景でした。彼がボールを持つと何が起こるか分からない。試合開始から終了まで、目を離さないように集中していないといけない。まるで強力な磁石で鉄粉を集めるように、そのプレーが我々の目を引き付けるんです。

79年のワールドユースでも、世界の一流を見せてくれました。でも、その時は日本人のサッカーに対する認識も低く、一般的には知られていませんでした。86年のW杯で多くの日本人がマラドーナを知り、サッカーを知った。それが、今のJリーグ誕生にもつながっていると思います。

実は86年から衛星放送が始まったんです。世界中がリアルタイムでW杯を見られるようになった。ペレの時代は「すごい選手がいる」と知ってフィルムやビデオを見る時代。それが、ダイレクトに世界に届くようになった。世界中が同時にプレーを見て、心を動かされる。そこが、ペレとの大きな違いです。

技術的、体力的な能力の高さは言うまでもないのですが、心には「にごり」もある。時折顔をのぞかせる「負」の部分。カメラを連れてインタビューに行くと、奥さんと喧嘩して機嫌が悪く何も話してくれなかった。そんなことも普通にある。ただ、人間臭いところは魅力でもありました。

すべてのエネルギーを決して大きくない体(165センチ)に詰め込んで、それが時々あふれ出してしまう。いつも濃いんですよ。それが善悪関係なく世界中すべての人に愛される。サッカーやスポーツという枠を超えてこれだけ愛された人もいないでしょう。

常に主役、メッシは周囲にも素晴らしい選手がたくさんいるけれど、マラドーナのチームはいつもマラドーナ1人でした。そして、引退後も主役は続きました。60歳は早すぎますね。80歳になったマラドーナが何を言い出すか、それも楽しみだったのですが。サッカー界にとって、いや世界にとって、寂しすぎます。