ボブスレーとスピードスケートで平昌五輪を目指す姉妹がいる。ボブスレー日本代表の押切麻李亜(22=ぷらう)は今年3月の世界選手権(ドイツ・ケーニヒスゼー)女子2人乗りで、男女を通じて日本勢最高の7位に入った。2学年上の姉美沙紀(25)は14年ソチ五輪スピードスケート代表。姉妹による異種競技での冬季五輪同一大会出場となれば日本勢史上初。1日で開幕まで100日を迎え「カウントダウン平昌」では、2人の歩みをたどる。
08年2月、長野市エムウエーブで行われた全国中学スケートで、中1の麻李亜(中札内中)は500メートルで、3位に入った。その時、表彰台の最上段は姉の美沙紀(同)。2位は高木菜那(幕別札内)のそうそうたるメンバーだった。スケート姉妹は、それを1つの契機に、やがて別々のレールを進み始めた。その冬物語は、10年の時を経て平昌で再び交差するかもしれない。
麻李亜は17歳でボブスレーを始め、今はパイロットとして平昌五輪出場を目指す。五輪には20チームが出場する。開催国の韓国をのぞく19枠入りをかけて、11月に始まる北米、欧州でのW杯(8戦)での獲得ポイントによって出場チームが決まる。麻李亜のチームは昨年のポイントで15位。十分に狙える力がある。
麻李亜 パイロットは主に頭を使うんですが、覚えることがとても多いんです。コースはもちろんですが、コーナーの大きさなど、全部を頭に入れないと。ミスなく滑らないとだめなんです。
きちんと考えてから話す。そんな話し方を気にしてか、こう切り出した。「私、しゃべりが苦手です。だから、自分のことを聞かれるより、姉のことを聞いてもらった方がうまくしゃべれるんです」。美沙紀に対する思いが言葉の端々に感じられる。
姉妹で励んだスケートは、麻李亜が中2でやめることになった。陸上短距離でも期待され、専念するための決断だった。後になって美沙紀は妹の複雑な思いを知るようになる。
2月の札幌冬季アジア大会を控えたころ、美沙紀はケガをしていて落ち込んでいた。自然と妹に連絡を取っていた。
美沙紀 スケートができないくらいでしたが、妹からは「今、やめたら後悔するよ」って言われました。妹は陸上の先生に「やめなさい」と言われてやめたんです。当時、妹は陸上に夢中でしたから。それでも「少し後悔した」と。「だから今やめると、お姉ちゃん後悔するからやめない方がいい」って。それが一番、私の心に響きました。
麻李亜は帯広南商高1年で全国高校総体陸上1600メートルリレーに出場して結果を出し、その後熱烈なラブコールを受けてボブスレーの世界に飛び込んだ。冬季ユース五輪にも出場し、五輪への視界が開けてきた。今は、競技は違うが美沙紀とのやりとりの中で、自分を奮い立たせている。
麻李亜 違う競技なんですけど、(冬のスポーツで氷と戦うという意味で)大体一緒かなって感じます。だから、経験が長くて、いろんなことを知っている姉が身近にいることはありがたいです。姉妹で同じ競技という話はよく聞きますけど、違う競技ってめったにないですからね。
姉の勇姿は13年12月のソチ五輪代表選考会で見ている。たまたま同じ長野にいて時間が空いた。1500メートルに出場する美沙紀のレースを応援した。「『調子悪くって』って言ってましたけど、選ばれたんです。100分の1くらいは応援した私のおかげだと思っています」。そして「私のレースも1度は生で見てほしいです」と続けた。
あの日、中1で3位に入った麻李亜を、美沙紀は脅威と感じていた。「危うく追い抜かされるところだったんです」。40秒99で美沙紀が勝ち、並びかけた麻李亜は41秒72。0秒73秒差に肉薄した麻李亜は、今は時速130キロの弾丸となってコースを滑走する。冬に燃える姉妹の目指す先は、平昌だ。2人の冬はクライマックスを迎えようとしている。【井上真】
◆冬季五輪の姉妹出場 88年カルガリー大会ショートトラック(公開競技)で山田由美子、伸子が3000メートルリレーで2位。98年長野大会ではスキー距離で横山久美子、寿美子が出場している。14年ソチ五輪ではスピードスケートで菊池彩花、ショートトラックで萌水が代表となり、彩花は1500メートルと団体追い抜きに出場したが、萌水は出場はかなわなかった。同一大会に異種競技で姉妹が出場した例はない。