パラアルペンスキー日本代表の海外遠征は1カ月以上の長期に及びます。特に山の中で過ごすので、食には苦労します。栄養バランスを考えながら、現地のものを食べるように心がけていますが、ホテルのビュッフェは似たような味のメニューが続くこともあり、1週間もするとうんざりしてきます。

 そんな時に力を発揮するのが持参した日本食です。ご飯や即席ラーメンを食べると、不思議なことに食欲が回復してきます。私が欠かさず持っていたのが七味唐辛子。例えば下味をつけずに調理しているお肉にかけるだけで味に和風のバリエーションがつきます。いろんな食材にかけます。

 ご飯は体調を崩した時にも頼りになります。食欲がなくなっても、おかゆがあれば何とかしのげます。ですから限りのある日本食をどこで投入するかは悩みの種。近年の欧州遠征は拠点のチューリヒ(スイス)のホテルに保管している炊飯器をピックアップして転戦しています。

 最近は食や栄養に対する選手の意識が格段に高くなりました。JISS(国立スポーツ科学センター)の栄養指導や、食品メーカーのサポートなどのおかげです。以前、パラアルペンの選手は練習中に水を飲みませんでした。トイレに行くには車いすを置いた場所まで下りなければならず、練習時間が削られるからです。それが今では小分けに給水したり、練習直後に水分を取るように変わりました。おやつを食べたり、むやみに清涼飲料水を飲む選手もいなくなりました。

 確かに食と栄養の知識は世界で戦う上で欠かせません。試合当日の朝食や直前の補食まで決めている選手もいます。ただそれに依存しすぎるのも危険。アルペン競技は天候の影響で競技が中断することがよくあります。食のルーティンを決めていると不安になります。縛られ過ぎないようにすることも必要です。

 今でもパラアルペン代表は海外遠征に日本食を持っていきます。たまの休みに仲間と日本の食材を持ち合って調理すると、気持ちがリフレッシュされ、元気になります。そんな時、やっぱり人は根本的に食に楽しさ、気分転換を求めているのだとしみじみ感じます。

(パラリンピック・アルペンスキー金メダリスト、日本パラリンピアンズ協会副会長)

 ◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、来年の平昌パラリンピック日本選手団長。電通パブリックリレーションズ勤務。45歳。