【大島光翔〈下〉】幼少期からそばに高橋大輔 「今気づくすごさ」駆り立てられる憧れ

日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の信念に迫る「氷現者」をお届けしています。

シリーズ第12弾は、シニア2年目を迎えようとしている大島光翔(明大)の登場です。最終回の「下編」は、コーチの父淳さんが活躍し続けたアイスショーの舞台に立つ前の決意、憧れ続ける高橋大輔への思い、そして「スタァ」らしい滑りに注力していく姿を描きます。(敬称略)

フィギュア

   

父を継いでアイスショーで披露した宙返り。「日本では現役選手でまだやった人がいなかったんで、絶対それは譲りたくないと思って」

父を継いでアイスショーで披露した宙返り。「日本では現役選手でまだやった人がいなかったんで、絶対それは譲りたくないと思って」

「スタァ」の本領、PIWで父譲りの宙返り

腹を決めるしかなかった。

2022年の初夏、覚悟が問われていた。

「初めてプリンスに出る時は、絶対に宙返りしたいって気持ちがあったんで。父親がやっていたので、そうとは思ってたんですけど、でも、まさか去年オファーが来ると思ってなかったんで。めっちゃ急でしたね」

プリンス・アイス・ワールド(PIW)、コーチである父淳さんがメインキャストを長く務めた舞台。シニア初年度を迎える直前、息子に出番が巡ってきた。

初出演で、絶対にやると決めていた、父の代名詞の大技だった。

「怖い、やばい、怖い。縦回転なんて分かんないから!」

後ろ向きに勢いよく滑ってきて、そのまま後方へ踏み切る。スケート人生初の動きに、体を支えるハーネスの補助でイメージは重ねたが、いざ挑むとなると、恐怖心との戦いに勝つ必要があった。

「ネジ飛んでないとやらないですもん。特に現役では。体操経験者の人などは恐怖が少ないらしいです。慣れてるっていうか。自分、体操も何も地上でもやったことなかったんで。やらざる得ない状況にするんですよ、自分を。そこまで追い込まないとできないんで」

中空に投げ出した視界が反転していくと、再び氷が見えてくる。氷上の一瞬の離着陸で、一発で、人生初の縦回転を決めた。

「昔、父はハーネスなんてないので、コーチがタオルとか使って練習したらしいです。信じられないです。本当にすごいなって」

驚嘆は挑戦したからこそ。使命感がたぎった。

「日本では現役選手でまだやった人がいなかったんで、だから、現役でやったら僕が1番だって思って。絶対それは譲りたくないと思って。(友野)一希くんとも『やりたいよね』って話していたので。いや、絶対に宙返りだけは譲りたくないなって」

PIWで披露し、往年のファンに父の記憶を呼び起こし、スーパースターだった父を継ぐ「スタァ」として、アイスショーの世界で輝きを放った。

シニアデビューを前に、その出自を、スケートの血筋を確認するように跳んだ、22年夏の出来事だった。

23年八戸国体、フリーの演技「トップガン」。最後は敬礼ポーズをばっちり決めた

23年八戸国体、フリーの演技「トップガン」。最後は敬礼ポーズをばっちり決めた

「トップガン」に込めたメッセージ

誰が見ても分かる「すごさ」。

父の宙返りへ憧れを募らせた幼少期のように、それはいまも大切にしている。PIWに時を前後した決断も、そうだった。準備してきたプログラムを急きょ変更することを決めていた。

「飛び付いてますよ」

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。