【中庭健介〈上〉】渡辺倫果の躍進引き出した指導の原点 4回転が人生を変えた
日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の信念に迫る「氷現者」をお届けしています。
シリーズ第11弾は指導者編として、中庭健介(41)の来歴を辿ります。2011年に現役引退後、福岡を拠点に指導者としての道を歩み始め、2021年からは千葉県船橋市で「MFアカデミー」のヘッドコーチを務めています。22-23年シーズンは、渡辺倫果(20=TOKIOインカラミ/法政大)や中井亜美(15=TOKIOインカラミ)らが活躍を見せ、中庭コーチの指導にも注目が集まりました。
全3回の「上編」では、フィギュアスケートを始めた経緯と、現役時代の人との縁を描きます。(敬称略)
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- 第1弾【村元 哉中〈全3回〉】高橋大輔が教えてくれた ―完璧じゃなくていい―
- 第2弾【山本 草太〈全3回〉】絶望の16歳秋 それでも「スケートが好きで」
- 第3弾【渡辺 倫果〈全3回〉】母は問うた「家族を犠牲…いいのね」
- 第4弾【中村 俊介〈全2回〉】羽生結弦の優しさ 三浦佳生の衝撃
- 第5弾【横井ゆは菜〈全3回〉】氷上のエンターテイナーのルーツ
- 第6弾【樋口 新葉〈全3回〉】黄金世代で輝く負けず嫌い
- 第7弾【西山 真瑚〈全4回〉】きっかけは“フィギュア”違い
- 第8弾【大庭 雅〈全3回〉】突然ウワサされるようになった14歳
- 第9弾【樋口美穂子〈全3回〉】浅田真央、宇野昌磨との出合い
- 第10弾【山隈太一朗〈全5回〉】中1事件「日本記録じゃね」伝説のやらかし
- 第11弾【中庭 健介〈全3回〉】渡辺倫果の躍進引き出した指導の原点
4月東京体育館、一般客に紛れてみた国別対抗
観客席からじっとリンクを眺めていた。
2023年4月15日。東京体育館。
今季の締めくくりとして、世界国別対抗戦が繰り広げられていた。
アリーナの2階席。中庭健介はジャッジと反対側の観客席に腰を下ろした。1人でチケットを握り、一般客に紛れ込んだ。
「今回はたまたまですけど、東京にいるとアイスショーも近くであったりして、スケートに触れる機会やチャンスがあって。そういうのはいいですよね。ライブでしか伝わらないことってあるので、すごくよかったです」
男子フリーの6分間練習。隣の席のファンは、佐藤駿(19=明治大)を応援しているようだった。そのお祭りムードの会場にも、少しずつ緊張が漂い始める。
導く立場となった今、演技を見守る視線はやはり「コーチ」の目になる。
公式練習や6分間練習の組み立て方。選手と指導者との距離感。
「他のコーチがどんな雰囲気なのかは見るようにします。どのタイミングで、どう選手を送り出したとかですね」
2011年4月から福岡でコーチの道を歩み始めた。2021年からは千葉県船橋市に拠点を移し、MFアカデミーのヘッドコーチとして指導にあたるようになった。
リンクへ向かう直前、何度も声をかけられてきた。そして、何度も声をかけてきた。積み重ねてきたからこそ、胸に刻んでいる。
コーチがその子の演技を劇的に変えることはできないこと。それでも、自分が発するその言葉には、確かな影響力を伴っていること。
「一言でガラっと変わることがあるので。良くも悪くも。めちゃくちゃ言葉は大切です。先生は一言で選手をダメにすることを理解しないといけない。ほんとに難しいです。言葉に責任を持たないといけないです」
大声で檄を飛ばすことはしない。今その瞬間に適した言葉を探し、対話し続ける。
その指導法に辿り着いたのは、自らの境遇とも密接に重なる。
少年だった頃の思いを、目をクシャっとさせて打ち明ける。
「スケートをやることを望んでいたわけではなかったので。どちらかと言えば、辞めたかったんです」
小3から競技、中学進学前に「辞めてもいいですか」
1981年10月15日。福岡県福岡市に生まれた。
小学2年生になると、近所の香椎スポーツガーデンへ通い始めた。両親や兄妹が経験者だったわけではない。自宅から自転車で通える距離にスケート場があったことが、競技に触れたきっかけだった。
最初の1年は週1回のペースでスケート教室に参加した。のびのびと滑っていたところ、コーチの石原美和から本格的に競技を始めないかと誘われた。
本文残り70% (3863文字/5558文字)
岐阜県不破郡垂井町出身。2022年4月入社。同年夏の高校野球取材では西東京を担当。同年10月からスポーツ部(野球以外の担当)所属。
中学時代は軟式野球部で“ショート”を守ったが、高校では演劇部という異色の経歴。大学時代に結成したカーリングチームでは“セカンド”を務めるも、ドローショットに難がある。
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