【島田高志郎〈下〉】父さんが見てくれている…チャプリンに込めた感情が力をくれた

日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の信念に迫る「氷現者」をお届けしています。

シリーズ第13弾は、昨年末の全日本選手権で2位と躍進した島田高志郎(21=木下グループ)の半生を記してきました。最終回となる「下編」は、これまでの2季を滑った「チャプリンメドレー」に込められた思いに迫ります。その再演の理由には、亡き父が導いてくれたスケーターとしての最上の瞬間を追い求めていく、強い決意がありました。(敬称略)

フィギュア

   

22年全日本選手権フリーの演技。「見ていてね」とリンクに入る時、父に呼びかけた

22年全日本選手権フリーの演技。「見ていてね」とリンクに入る時、父に呼びかけた

22年全日本フリー演技前、いつもどおり呼びかけた

そのメロディーが氷上に響き始める直前、心の中で声をかけていた。

「見ていてね」

2015年4月にこの世を去った父雄二郎さん。いまもそばにいてくれると感じている最愛の人へ。

滑り始めようとしていたのは、2021-22年シーズンから2シーズンをともにした、俳優チャールズ・チャプリンの映画をテーマにしたフリープログラム。長い手足を軽やかに、柔らかさにしならせ、時におどけた、時に悲哀も込めたしぐさが作り上げる代表作だった。

「本当に力をもらったなって。本当に、ずっと心の中で生き続けてくれている感覚がありましたし、その思い入れも含めてチャプリンメドレーをもう1回やりたいということになったんです」

もう1回-。それは2015-16年シーズン以来のチャプリンの再演だった。

「だから全日本で、いい演技ができて、本当によかったなって思います」

2022年の全日本選手権のフリーだった。

ショートプログラムを2位で終え、最終滑走の1人前の演者としてリンクに入る時、いつもどおりに父に呼びかけた。

「見ていてね」

映写機が動く音が鳴り始めると、冒頭の4回転サルコーこそ手をついたが、続く4回転トーループからチャプリンの魅力を観客に届けていく。4分間を滑り抜いて、肩で息をする中でも、首を振っておどけた動きは、作品への愛情を伝えるようだった。

最終結果は2位。

それは覚悟を持ったシーズンでの歓喜の瞬間だった。

22年全日本で2位となり初の表彰台。宇野昌磨、友野一希と場内一周

22年全日本で2位となり初の表彰台。宇野昌磨、友野一希と場内一周

8年前父を亡くした年に演じたプログラム

ある切望が作品には込められていた。

思い返すのは8年前。父が亡くなった年の全日本ジュニア選手権だった。演じていたのがチャプリンだった。

「試合の前は、父を思って、見てくれてると思って滑ろうと。そうしたらリンクに立った後から、なんだろう、もう自信とは何か違うんですけど、すごく良い流れに乗れた気がして。滑ってる最中から温かい風を感じるような、いまで言えばゾーンに入ったような感覚ですね。やること全てが何の迷いもなく、本当に気持ちよくプログラムを滑ってたんです」

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。