【平井絵己〈下〉】パートナーと結ばれ指導者の道へ 日仏を股に掛けた新たな挑戦

日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の思いに迫る「氷現者」をお届けしています。

シリーズ第15弾は元アイスダンス選手で、現在はコーチとしてフランス、日本を拠点に活動する平井絵己さん(36)が登場します。

全3回でお届けする最終回は、のちに夫婦となるマリオン・デラアスンシオンさん(34)との競技生活、コーチとなった「今」をひもときます。(敬称略)

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現在、リヨンでコーチとして活動する平井絵己さん(左)と夫のマリオン・デラアスンシオンさん(平井さん提供)

現在、リヨンでコーチとして活動する平井絵己さん(左)と夫のマリオン・デラアスンシオンさん(平井さん提供)

15年のNHK杯、歩けないマリオン

遠くに見える山々は、頂にかけて雪化粧していた。

2015年11月。長野に降り立った平井は、両手で2人分の大きなスーツケースを転がしていた。

リヨンを拠点にデラアスンシオンとカップルを結成し、5季目の秋だった。

パートナーは、まともに歩くことができていなかった。

グランプリ(GP)シリーズ最終戦となった、NHK杯前のことだった。心身はもちろん、時差の調整も兼ね、2人はコーチのオリビエ・シェーンフェルダーより一足早く日本入りしていた。

場所は当時ナショナルトレーニングセンターとして利用されていた、愛知・中京大の施設「オーロラリンク」だった。シェーンフェルダーの来日まで、国内を拠点とするコーチの有川梨絵に指導を受けていた。だが、まさかの出来事は2人で滑っていた時間に起きた。

足慣らしをしている段階で、デラアスンシオンが腰を強打した。トレーナーとともに病院へ向かったが、靴も履けず、歩けなかった。パートナーは車いすで移動をする状態に陥った。

「棄権するしかないと思いました。『歩けないのに、私はどう支えてあげたらいいんだろう…』。そんなことを、ずっと考えていました」

幸い骨は折れていなかったが、強い打撲で炎症を起こしていた。長野への移動前日、2人で少しだけ氷に立った。到底、演技を見せられるとは思えなかった。

15年NHK杯アイスダンスFD、痛みをこらえて演技するデラアスンシオンに「本当にいいパートナーだな、と思いました」

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競技にかける思い、深まった信頼関係

2011年のカップル結成当初、言語が違うパートナーと意思疎通に苦労していた。「思ったことを言ってくれないと、分からないじゃないか。はっきりと言ってほしい!」。そう強く諭されたこともあった。だが、平井は慣れないフランス語を毎日メモに残し、語彙(ごい)を増やしていた。2人で時に喜び、時に意見をぶつけながら滑り込み、信頼関係を深めていった。

それでも-。日本で見るデラアスンシオンの姿は、今までにないものだった。

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大学までラグビー部に所属。2013年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社。
プロ野球の阪神を2シーズン担当し、2015年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当。
2018年平昌冬季五輪(フィギュアスケートとショートトラック)、19年ラグビーW杯日本大会、21年東京五輪(マラソンなど札幌開催競技)を取材。
21年11月に東京本社へ異動し、フィギュアスケート、ラグビー、卓球などを担当。22年北京冬季五輪もフィギュアスケートやショートトラックを取材。
大学時代と変わらず身長は185センチ、体重は90キロ台後半を維持。体形は激変したが、体脂肪率は計らないスタンス。