日本フットボール界期待の星・久保建英選手がビリャレアルへの期限付き移籍を解消し、新たにヘタフェへ期限付き移籍しました。今季、レアル・マドリードからビジャレアルにレンタル移籍したものの、開幕時にその名前はスタメンボードにはありませんでした。常に上位を狙うクラブにおいてはまだ力不足だと判断されたと思いますが(個人的には使うべきであるとは感じておりましたが・・・)、非常に可能性を秘めていることは確かで、ファンとしては大きな期待をせざるを得ません。

今回はその久保選手が移籍したヘタフェをのぞいてみたいと思います。1946年に設立され、当初はソシエダート・ヘタフェ・デポルティーボという名前でした。スペイン内戦を経て改めて1983年にクラブ・ヘタフェ・デポルティーボとして再設立された経緯があります。04-05シーズンに1部に初めて昇格し、以降16-17シーズンに1度だけ降格しましたが、これをのぞいて1部を保っていることから、今では「1部に定着したクラブ」といっていいと思います。2011年4月25日にクラブはドバイの王族一家でもあるロイヤル・エミレーツ・グループに当時の金額で9000万ユーロの価格で売却しており、そのような空気は感じにくいのですが、実はアラブマネーに支えられているクラブでもあります。ボスはアンヘル・トーレスという人物で、私も何度かお会いしましたが生粋のレアル・マドリードファンであり、そしてこれを公言しており、クラブ間の関係は超がつくぐらい良好だったりもします。レアル・マドリード大学院生のインターンも含めてヘタフェにレアル・マドリード関係者が多いのは事実です。

ヘタフェの町自体はマドリードから電車で15分ぐらい南下したところにあり、車でも20分ほどでいける場所でもあります。マドリード市内の中心部に通勤している方も多く住んでいる町で、過去にはレアル・マドリードで育った選手も多く所属しており、近年ですと、グラネロ(MF)やソルダード(FW)などがこれにあたります。

さて、このヘタフェですが、19-20シーズンの決算資料をのぞくと約7700万ユーロの売上を計上しています。つまり日本円で約96億円の売り上げ規模です。Jリーグのトップチームとほとんど変わりません。しかしながら、この数字を真に受けては行けない背景があります。リーガのテレビ放映権の分配を確認すると、ヘタフェはこの年に5880万ユーロの配分を受けており、これを引くと実質的な売り上げとしては約1820万ユーロ(約22億7500万円)となり、Jリーグチームとの売り上げ比較でみても仙台・松本・鳥栖などが25億円前後の売り上げになりますから、クラブ規模としては同様になります。特に売り上げの中でも約10%が移籍金による売却益であるとみられています。テレビ放映権分配で得たお金を投資し、そのまま選手の獲得・売却を経て得られる純利益と見立てる意味では、10%近くの利益収入は大きいと考えられます。この錬金術こそ、フットボールビジネスの醍醐味と言っても過言ではありませんが、数年前の資料を引っ張り出してくると、約2000万ユーロ(約25億円)近い負債があるとも記載がなされており、クラブ経営に余裕がないのは確かです。その影響もあるのか、基本的にチケット代は若干高めに設定されている感覚があります。

久保選手の活躍を応援しつつ、同じ画面に映る選手がどのような形で飛躍し、羽ばたいていくかに注目するのも、このクラブを見る上での楽しみの1つかもしれません。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)