つい先日ですが、イタリアリーグのセリエAに所属するユベントスFCで、不正会計が指摘されました。勝ち点剥奪だけでなく長年に渡ってチームをまとめてきたアンドレア・アニエッリ会長を筆頭に、パベル・ネドベド副会長、マウリツィオ・アリーバベーネCEOら、取締役会を構成する全役員が突如総辞職したとのニュースが流れました。報道では会計処理に関して指摘がなされたとの事で、今回は何が行われていたのかを覗いてみたいと思います。

ユベントスFCは1897年に学生らによって立ち上げられたクラブで、イタリアを代表する「ACミラン」、「インテル」とのビッグ3の一角を占め、スクデット獲得回数はセリエA最多の36回を誇る(ACミラン、インテルはどちらもスクデット獲得19回)世界でも指折りのビッグクラブの一つです。1980年代には世界的にも名を馳せたGKディノ・ゾフを中心に将軍ミシェル・プラティニや、W杯スペイン大会で得点王にもなったパオロ・ロッシと共に黄金期を迎えました。ヨーロッパチャンピオンとして日本で行われたトヨタカップにも来日。デル・ピエロ、ジダンや現フランス代表監督のデシャンを中心に1996年から1998年にかけては3年連続でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝に進出。2度の優勝を誇る強豪チームなのですが、2000年代半ばには審判買収疑惑などのスキャンダルと共にスクデット剥奪やセリエB降格などの処分に。数年の低迷期を乗り越えここ最近はようやく落ち着きを取り戻したかのように思えたのですが、ここにきて不正会計が発覚したという流れです。

実際のところ、ユベントスは株式会社であり上場企業です。それゆえ、このような不正会計が指摘されやすかったという意見もありましたが、2021-22シーズンの会計報告においてはイタリアサッカー史上、過去に例がないほど巨額の赤字を計上しています。その額はおよそ2億5000万ユーロ、日本円にして約350億円。超がつく赤字ですが、主な原因は現地報道によると2つです。1つは2019-2021年の2シーズンにおいて、一部の選手と合意の上で行った給与のカットに関する会計の処理で不正が発覚。もう1つは過去数年の選手の移籍において不正操作が行われたとありました。給与カットに合意したものの、選手が渋っていたこともあり、表向きは給与カットで合意。しかしながら裏ではこっそりと選手に当初の契約通りの金銭を渡していたことがレポートされており、コロナ禍であったとはいえ、これは完全にNG行為。

また、もう一つの移籍会計の部分では、1億円の選手を5年契約で獲得した場合、イタリアでは1年あたり2000万円という支出での計上処理になりますが、一方、1億円で選手を売却した場合はその年の収入に1億円の売り上げが計上されます。例えば3億円の選手を獲得したい場合、FIFAファイナンシャルフェアプレー(FFP)のルール上、その年に3億円以上の売り上げが必要になるので、どうにかして選手を売却するなどして売り上げを新たに作らなければなりませんが、その他の借金の処理も考える必要があるため、どうしても売り上げを多く見せる必要が出ました。ここでユベントスが行ったのは交換トレードをうまく使った手法でした。5000万円の選手をトレードしたように見せかけ、実際は選手5000万円分に現金2000万を上乗せして売却。一度7000万円の売り上げが立ったように見せ、(この時点でトレードによる5000万円相当の選手を入れ替え獲得)しつつ、この一度計上した売り上げ7000万円を理由に、さらに7000万円の選手を獲得。これを数度繰り返すことによって、トレードにて戦力をキープしながら新たな選手を獲得しているように見せて会計処理を行なったとされています。クラブの収支は選手の移籍に伴うものだけではないですが、便宜上上記としました。

しかしながら、この後にリーグやCLなど上位進出したことで大きく収入があればなんとかなったかもしれませんが、こういう時に限ってリーグ優勝はインテルだったりミランだったり。さらにCLでも決勝トーナメントで早々と敗退するなど、巨額な売り上げは全く手に出来ず、全て予想が外れました。

しかしなぜこのようなわかりやすい不正を行ったのかと、現地でも散々追求されていました。そもそもコロナ禍において売り上げの目処が立たなく、同時にコロナ前に獲得した選手の移籍金支払いなどで非常に厳しい状況であったことは間違いないでしょう。

放映権がなかなか良い金額で売れず、元気がないセリエA。昨年のW杯カタール大会も出場することができず、サッカー大国イタリアの過去の栄光が霞みつつあります。厳しい台所事情であるが故に、若き新しいスター選手の登場が期待されるところではあります。ユベントス、セリエAともども、なんとか踏ん張ってもらいたいものです。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)