欧州サッカー連盟(UEFA)が2011年に導入したUEFAのファイナンシャル・フェアプレー規則(UEFA Financial Fair Play Regulations)があります。2014年から施行されたクラブの会計規則に当たるものです。UEFAに加盟するプロサッカークラブの財政健全化を目指したもので、UEFAに加盟するクラブは、移籍金や人件費などの支出が、移籍金や入場料、テレビ放映権料、大会賞金、スポンサー収入などのクラブがサッカーによって得た収入を上回ることを禁じられました。金融機関からの借入金やオーナーの資産などによって赤字を補填することも不可。フットボールクラブの本質である育成に関する費用や、スタジアムや練習場などに施設を整備する費用は支出にふくまれないとされていた。
しかし、このFFPも来シーズンからは新規則が導入されるということで、適用は2022−23シーズンまでとなっていました。シーズンが終わりクラブ関係者はほっと安堵の胸をなでおろしていたと思われますが、現地時間の7月14日に最後の警告がなされたと報じられました。対象となったのはバルセロナとマンチェスター・ユナイテッド、ベルギー1部リーグのロイヤル・アントワープFC、トルコ1部リーグのトラブゾンスポルの4クラブです。
バルセロナが指摘されたのは、関連収入とは認められていない無形資産の売却益などを不正に計上して会計の帳尻を合わせたという内容。罰金額は50万ユーロ(約7800万円)にもなり、ただでさえ負債を抱えているクラブ状況からすると非常に大きな罰金額です。マンチェスター・ユナイテッドはクラブの損益を抑制するための損益分岐点の要件を満たせなかったとして、こちらは30万ユーロ(約4700万円)の支払いが命じられたということです。他2クラブは、年間で3000万ユーロ(約47億円)以下の損失しか計上できないところを、これを満たさなかったとして、それぞれ200万ユーロ(約3億1000万円)の罰金が科された模様です。最後の最後にこのような罰則を受けることになるとは、クラブ側としては非常に納得がいっていないであろうことが推測される。
振り返ってみると、FFPの導入によってそれまで赤字経営を続けてきたクラブは経営方針の転換が迫られ、主力選手の売却や補強が制限されるといったケースが多くみられました。一方、FFP対策としてオーナーと関係を持つ企業とのスポンサー契約を結び、収入を増やしたクラブもみられました。その代表的なクラブが、日本にも来日したマンチェスター・シティ。
オーナーであるアブダビ王族の経営するエティハド航空と巨額のスポンサー契約を締結しており、これはまさにFFP対策と言われたこともありましたが、これが適正な価格を上回っているとUEFAに判断されました。2020年2月にはこのスポンサー収入がエティハド航空を迂回したオーナーによる投資と判断され、2季の欧州カップ戦締め出し処分を受けるなど当時大きな話題となったケースもあります。(その後、CASにより処分は覆されましたが。)
ここで飛び出したのが選手間の移籍を利用した「裏技」です。選手の金額を不当に釣り上げた形で取引することで、不正に会計処理を行なわれました。選手を獲得するための移籍金は、選手との契約期間に応じて償却されるため、例えば年俸3000万ユーロで3年契約をしたとすると、各シーズンの支出は1000万ユーロになります。一方で選手を売却して得た他クラブからの移籍金は、単なるその年の収入として計上されるため、例えば5000万ユーロで選手を売れば、売り上げはそのまま計上。トータルでは2000万ユーロの差額となりますが、これが1000万ユーロの支出で良いということになると4000万ユーロの差となり、この時点で2000万ユーロ分の売り上げが加算されたような形になります。
この売り上げを増やすことがポイントで、売り上げを増やせばFFP上はその年の支出上限は上がります。さらに、選手のトレードという形を活用することで、例えば3000万ユーロと2500万ユーロの選手をトレードしたとすれば差額は500万ユーロですが、この2選手を裏で口合わせし、5000万ユーロと4500万ユーロの取引であったことにしたとすれば、帳簿上の売り上げ計上分は増加します。実際の差額は500万ユーロのままなので、動く金額そのものは500万ユーロですが、帳簿上は大きく数字を増やすことが可能です。
イタリアのユベントスは、巧みにルールを回避して実際よりも多くの収入を帳簿に記していたといいます。ユベントスは上場会社であることもあり、イタリア政府がこれを問題視したこともあり、幹部が追放処分を受けるなどの大事に発展した。
大切なことは、「キャッシュがない」ということで、世界中に名が知れ渡るほど有名なフットボールクラブであっても、現金の保持はなされておらず、毎年厳しい状態であるが故にこのような不正会計に発展してしまいます。今後どのように取り締まっていくのか、改めて注目です。
【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)




