タイの選手がJリーグのトップチームで活躍する姿は、普通の光景となった。北海道コンサドーレ札幌MFチャナティップ、サンフレッチェ広島FWティーラシン、そしてヴィッセル神戸のDFティーラトン。外国人枠に入らないJリーグ提携国で、その交流も活発になった。その活躍は、タイのサッカー少年にとってJリーグという舞台を「夢」から「あこがれ」へ近づけている。

先日、ティーラトンに話を聞いた。「タイだけじゃなく、東南アジアのサッカーのレベルは上がっていると思う。国内の環境も向上しているし、国内リーグをステップに今はJリーグという目標がある」と話す。

ティーラトンによると、タイでは国の支援でスポーツが優秀な子どもを育成するアカデミーのシステムがあるという。体操、セパタクロー、ボクシング、水泳、バレーにサッカー。セレクションに合格すれば高校まで、学びながらスポーツの才能を伸ばせる。ティーラトンも、このエリートコースを進んだ。ただ、それは弟のために選んだ道だという。

「サッカーはそんなに好きじゃなかった。最初は家族のためでした。負担を減らしたかった。自分は2人兄弟。スポーツの学校に行けば学費は免除され、その分を弟に回せる。でも、すぐにサッカーが楽しくなった。国の代表になれて、今の生活がある。サッカーには本当に感謝してます」

ティーラトンらは夢を与え、夢を求めている。タイのワールドカップ(W杯)出場。レベルを上げてきたとはいえ、その道は「まだまだ遠い」と言う。

「今回、いいところまでいったが、W杯に出るには力が足りない。日本や韓国、オーストラリアと比べてその壁は、はるかに高い」。タイはW杯ロシア大会のアジア最終予選に進んだ。オーストラリアと引き分けるなど健闘したが、最終結果は2分け8敗。アジアの強国の分厚い壁にはね返された。

この距離を縮める意味でも、Jリーグは最高の舞台となる。ティーラトンは神戸でMFイニエスタ、FWポドルスキの世界超一流選手とプレー。「常に刺激を受けている。失敗して怒られないかドキドキだけど」。培った経験を持ち帰り、国のサッカー発展につなげることができる。

タイがW杯の舞台に立てるのは何年後か。ティーラトンは神戸の小学校を訪問した時に感じたことがある。「日本は本当に積極的な子どもたちが多い。タイの子どもたちにも、この積極性があれば。シャイな子が多いんです」。いろいろな意味で殻を打ち破ることが、夢への道となる。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆実藤健一(さねふじ・けんいち)1968年(昭43)3月6日、長崎市生まれ。若貴ブームの相撲、ボクシングでは辰吉、徳山、亀田3兄弟らを担当し、星野阪神でも03年優勝を担当。その後いろいろをへて昨春からスポーツ記者復帰。いきなりC大阪が2冠と自称「もってる男」。