ガンバ大阪の元日本代表GK東口順昭(36)には、期するものがあったに違いない。
湘南から復帰した東京オリンピック(五輪)日本代表の谷晃生(22)との守護神争い。
開幕から3試合は谷が先発し、リーグ戦は今季初先発となった。
昨季まで不動の存在だった彼にとって、見えない重圧もあったのだろうか。
開始わずか1分16秒で先制点を許した。それは、相手のフリーランニングに守備陣が対応できなかったためで、間違いなく東口だけの責任ではなかった。
ただ、1-1の同点で迎えた後半ロスタイム。ボール受けようと下がってきたMFネタ・ラビに対し、相手が張り付いているにもかかわらず緩いパスを出し、それが原因でPKを与えてしまったことは、判断ミスだった。
自らの責任で引き分けたはずの試合で、勝ち点1を失ってしまったのである。
試合後の取材エリア。
無言のまま通り過ぎ、すぐにバスに乗り込むこともできただろう。ただ彼は、報道陣に声をかけられると足を止め、しっかりと現実と向き合った。
「早い時間の失点と、終わり方は最悪でした。後半ロスタイムに入って…。味方も疲れているであろう時間帯で…。あそこに(パスを)出すのは、単純にミスやと思うし。反省して、やっていくしかないです。(相手のプレッシャーが)バッチリ来てたから、違うところが空いていたと思うし…。失点してしまっては意味がないんで。やったらあかんミスです」
遠くにある1点を見つめながら、その場面を思い出していた。辛い時間。しかし、そうすることで、次への1歩を踏み出そうとしているようにも見えた。
失敗は成功の糧になる-。
こと若手に対してよくそんな言葉が使われるが、ベテランだからといって失敗をしないわけではない。スポーツの世界だけでなく、完璧な人間などそうはいない。
36歳になった今でも、もがき、苦しみ、それでもまだ成長しようとしているのである。
もしかするとそれは、G大阪というチームが、成長著しい22歳の谷を、あえて期限付き移籍先の湘南から引き戻した1つの理由かも知れない。
代表レベルのGKが2人。
1人は怖いものがないほどに若く、もう1人はアスリートならいつかは訪れるであろう“老い”を感じる年齢に差しかかっている。
まだまだやれる-。
そうやって、ベテランを再びはい上がらせるために、この競争はあるのだと思う。
これまでも、決して順調ではなかったはずだ。新潟時代は2度の右膝前十字靱帯(じんたい)断裂。ケガで長期離脱しながらも、G大阪はジュニアユース時代に本田圭佑らとともに在籍した東口を14年に獲得した。以降、その恩に報いるために常に代表に招集される存在になった。
「結果が全てです。今後、自分自身がアピールする上で、大事な試合になった」
そう、プロの世界とは年功序列で試合に出られるほど甘くはなく、たとえ何歳になろうともアピールが必要になる。チームは開幕からリーグ戦4戦未勝利(2分け2敗)と苦しむ。
ただ、いつか、必ず訪れるはずである。
GKのおかげで試合に勝つ日が-。
それは東口と谷が切磋琢磨(せっさたくま)を続けているからこそ、思い描くことのできるG大阪の希望。
すっかり日が沈み、肌寒くなったスタジアムを出る時に、そう感じたのである。【編集委員=益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」