約10年ぶりに取材しているヴィッセル神戸が、J1で首位を堅持している。

久々に取材者として見る身としては、「クラブ史上初の1桁順位」や「奇跡の残留」で大騒ぎしていた頃を思うと隔世の感がある。

第12節を終えて8勝2分け2敗の勝ち点26。2位の横浜F・マリノスに勝ち点2差に迫られてはいるものの、開幕連勝して第2節で首位に立って以降、その位置を守り続けている。

好調を支えているのは、強度の高い守備と、素早くゴールを目指す攻撃だ。

守備は、今の神戸の「立ち返る場所」となっている。最前線からボールを追い、後方の選手が連動して相手を追い込んでいく。吉田孝行監督(46)は「どの試合でも、まず自分たちのやることがはっきりしている。その先に勝敗があるが、やり続けることによって勝ち星が多くなる」と、その部分を重要視している。

吉田監督が現役時代にも、連動した守備は神戸の得意とするところだった。相手にパスの出しどころを与えず、「何もさせない」という試合は何度もあった。ただ、当時と違うのは、その強度だ。守備時のスピード、パワーが格段に増している。

相手を自由にさせないだけでなく、奪いきって攻撃につなぐ。最後方からチームを見るGK前川黛也(28)が「個々の守備への意識、強度がどのチームよりも高い」と話す通り、その力強さが圧倒的なのだ。

紙面記事にも使わせてもらったが、2-0で勝利した第10節に、対戦した湘南MF永木亮太(34)の言葉が印象的だった。「相手のプレス強度がびっくりするぐらい強かった。負けるべくして負けた試合」。ハードワークの代名詞のようなチームにここまで感じさせるのが、今季の神戸の守備である。

もうひとつのポイントである攻撃については、サッカーの「目的」をあらためて考えさせられるものだ。

サッカーは、相手より多くの得点を挙げたチームが勝つスポーツ。誰もが知ることだが、メンバーの特長を見極め、得点にフォーカスする吉田監督の意向が、リーグ最多の26得点につながっている。

神戸には、FW大迫勇也(32)という絶対的な存在がいる。この強みを最大限に生かしているのが、神戸の得点力の源だ。大迫自身で決める力もさすがだが、目を引くのは競り合いの強さとキープ力。言い方は雑になるが、ボールを預ければ「何とかしてくれる」からこそ、他の選手も思いきって飛び出していくことができている。

得点に一番近いと思われる方法をまず優先に考えること。当然のようにも思えるこのことを浸透させられているのが、リーグ1の得点力の要因となっている。

日本ではポゼッション率の高いスタイルが「良いサッカー」と評価されることが多いように思う。もちろんスタイルの好みはあっていいのだが、サッカーがどういったスポーツであるかを考えた上で、考えるべきではないだろうか。

「サッカーが体操のように採点競技で、パスを10本つないだら1点とかであれば、パスをつなぐことに特化するが、そうではない。やはりゴールを奪うことが前提だと思う」

ポゼッションスタイルありきのサッカーファンの方々にも、ぜひ耳を傾けてもらいたい吉田監督の言葉だ。

このように、良い守備と鋭い攻撃がつながる狙い通りの戦いができていることが、結果を生んでいる。MF山口蛍(32)も「チームがうまくまとまって、良い集団になってきているなと思っている」と成長に自信を見せる状態になっている。

一方で不安は、酷暑の中で強度の高いプレーをどれだけ継続できるかと、主力の離脱だ。それを埋めるためには、控え組の底上げが欠かせないのだが、先発しているメンバーとのギャップが大きいのが実情だ。

控え組中心で戦った8日のセレッソ大阪との練習試合では、0-7と大敗。プレーだけでなく、メンタル面での差も小さくないと感じさせる内容だった。

たまたまトップの位置にいるわけではないと思わせる神戸だからこそ、長丁場のシーズンを戦い抜くための厚みが出てくることを期待したい。クラブ史上初のリーグ制覇は、その問題をクリアした先にしかない。【永田淳】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)