東北ゆかりのスターたちに生い立ちやターニングポイントを聞く「わたしのツクリカタ」の第4弾。J2山形の守護神・GK山岸範宏(38)の後編は、プロサッカー選手としての生きざまについてです。浦和時代に同い年の元日本代表GK都築龍太(38=現さいたま市議会議員)と壮絶なレギュラー争いを繰り広げました。控えの時も努力を続けてきたからこそ、今でも現役を続けられていると、振り返りました。
38歳で現役を続けられているのは、不器用だったからこそ努力を積み重ね続けられたから。04年に神戸から浦和に復帰された岡野さん(雅行、現J3鳥取GM)から「続けられることも才能、続けていくのが実は一番大変」って言われました。たとえ苦しい状況であっても努力を続けられるのも才能だと思う。自分にセンスや器用さがなかったからこそ、できないのが悔しくて続けられた。
浦和で都築とレギュラー争いをしていく中で、自分は常に試合に出場し続けてきたわけじゃありませんでした。その中でジレンマを抱え、気持ちが不安定になることもありました。けれども土田コーチ(尚史、浦和GKコーチ)がプロとしてのあり方、考え方を示してくれました。
「出られない時にいかに自分が努力を積み重ねたかによって、自分が出場したときの周りからの信頼が違う。味方の選手がお前のことを助けてくれるはずだ」って言われました。毎週末の試合に出てないので短期的な目標が見えづらい中、全体練習が終わった後も試合に出るイメージを持ちながら、自分が納得するまで練習していました。
浦和で試合に出るGKが、そのまま日本代表に選ばれる時期がありました。同い年でその状況を体験できたのは、過去の他のチームを見ても、自分と都築だけだと思う。良きライバルってオブラートに何重にも包んで聞こえは良いかもしれないが、あいさつもしなかったし、軽く冗談を言い合うとかもなかった。
今だから言える話だけど、都築のケガを願ったのも事実。生活が懸かっているプロ選手の一面として、ある意味で健全だと思う。7年半一緒にプレーした中で、トータルで話したのは1時間もない。今でも高みを目指せているのは、都築という存在があったから。土田コーチには大きな感謝があるし、都築という素晴らしいGKと切磋琢磨(せっさたくま)できたのは何物にも代え難い経験でした。
中でも強く印象に残っているのが、ピッチに立ち続けてJ1で優勝した06年シーズンです。自分の中でも貴重な経験の1つで、今の自分を支える自信でもあります。浦和でレギュラー争いをすることの難しさや、優勝が近づくにつれて大きくなるプレッシャー、その中で1つ1つ乗り越えていかなければいけない大変さ。自分の思い通りにならないことが圧倒的に多いプロの世界で、タイトル獲得というのはそれまでの努力が報われる瞬間でした。若いチームメートには「キャリアの中でタイトルをとることの喜びと達成感を味わうべきだ」と伝えています。
翌シーズン(07年)は序盤にインフルエンザにかかり、1試合欠場したことでポジションを失ってしまいました。治っても試合に出られない現実を受け止めなきゃいけないんだけど、すぐには受け入れられませんでした。はらわたが煮えくり返るという表現じゃ足りないぐらいの。いろんなものに理由をつけて、自分のストレスの逃げ道をつくっていました。インフルのせいにしたり、監督のせいにしたりするのは簡単かもしれないけど。それはすべて自分のせい。自分に起こることは自分が招いたこと、今ならそう考えられます。
子供たちに言いたいことは、人から言われることに素直であること。消化して受け入れることは自分次第だけど、まず言われたことに対して素直であることが大事。自分に言ってくれる人は、自分のためを思って言ってくれている。「なんで」「でも」「だって」と、最初から否定的に受け取る人は伸びないことが多い。
プロになるには素直であることも大切。指導者や親から耳が痛くなることを言われたりするかもしれないけど、言う立場からしたら君のためを思って言っているわけだから。まずは素直に聞き入れることが重要です。
あとは親や、支えてくれる人への感謝を忘れないこと。両親は小学校の時から試合会場に応援へ駆けつけてくれて、今でも「私たちがこの年まで範宏の追っ掛けができているのが幸せ」って言われます。子供の頃から好きだったことを職業にできてるのは幸せなこと。それを支えてくれる人たちに感謝しなきゃいけないですね。(終わり)
◆山岸範宏(やまぎし・のりひろ)1978年(昭53)5月17日、埼玉・大里町(現熊谷市)生まれ。市田小3年からサッカーを始め、大里中、熊谷高を経て、中京大に進学。00年の大学選手権で関東、関西以外の大学で初の日本一。01年に浦和へ入団し、06年のJ1優勝に貢献。14年6月に山形へ期限付き加入し、J1昇格に導いた。15年に完全移籍。J1リーグ通算171、J2リーグ通算39試合出場。185センチ、88キロ。血液型O。
(6月2日付 日刊スポーツ東北版掲載)
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