あのとき、鹿島アントラーズの誰もが悔しさに打ち震えていた。

4月7日、BMWスタジアムでの湘南ベルマーレ戦。オウンゴールで先制を許し、FW鈴木優磨のゴールで同点に追いつくも、後半ロスタイムのラストワンプレーで勝ち越されて敗れた。大岩剛監督は「すごく悔しいゲーム」と唇を噛みしめ、MF三竿健斗は「今は本当に苦しい」と胸の内を吐露した。

あれから5カ月余り。ホームで迎えた今季2度目の湘南戦は、まるで映し鏡のようだった。先制し、同点にされて引き分け濃厚だった後半ロスタイム。途中出場の鈴木が、頭で決めた。劇的な勝ち越し弾。大岩監督は「信じてました」とほおを緩めた。あの負けの呪縛を振り払い、雪辱を果たした。

1-0で迎えていた後半21分、鈴木が途中交代でピッチ脇に立ったときだった。湘南に同点に追いつかれた。直後に交代が認められた。「追加点を取りに行く」と言われて送り出されたが、展開は変わった。だが、もはや鹿島の新エースに君臨する男の胸の内は、落胆よりもやる気に満ちていた。

「自分としては、その方が逆に燃えた」。

投入直後、DF西大伍に「オレに上げてくれ」と頼んだ。前線で動き回り、打点の高いヘッドで落としてはチャンスをつくった。だが、決まらない。引き分けも現実的に見え始めていた後半46分だった。中盤の右サイドで西がボールを持った。そのとき、鈴木はやや後方にいた。だが-。

「大伍さんが蹴ったあの空間には、自分しか触れないと分かっていた。前の永木選手が邪魔だったんですけど(笑い)その前に入っていきました。勢いをつけて入れるポジションだったので、あとは前の選手がどいてくれれば、決める自信があった」。

言葉通り、勢いそのままに飛び込んだ鈴木の頭が、1つ飛び抜けていた。

18日には、天津権健(中国)とのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝第2戦がある。鹿島にとって、まだない唯一のタイトル。そこに向けて、またとないはずみがつく勝ち方。「今日みたいな、なかなか難しいゲームを勝ちきることができたのは、チームとしてプラス。これをうまくACLに持って行ければ」。鈴木の言葉には、頼もしさがあふれていた。