新型コロナウイルスの感染拡大で中断していたJリーグがいよいよ再開する。J1は7月4日、J2は今月27日に再開、J3は開幕となる。当面、無観客試合となるJリーグの見方も変わる中、ウイルスと共存しながら楽しむ観戦法に着目。「さあリーグ再開! Jのミカタ」と題し、新しい応援スタイルを紹介する。第3回はJリーグ史上初の無観客試合を実況したアナウンサーに聞く。

   ◇   ◇   ◇

6年前に放送席から見た、がらんとしたスタンドに思いを巡らせた。西岡明彦アナウンサー(50)は14年3月23日、埼玉スタジアムでの浦和-清水戦を実況。浦和サポーターの差別的横断幕掲載の制裁で、Jリーグ史上初の無観客で実施された一戦だった。国内外合わせて年間約120試合の実況を約20年も積み重ねてきた西岡アナは、何段にもなる記憶の引き出しから当時の情景を取り出した。

西岡アナ 静寂に包まれるというのは、こういうことを言うのかなと。歓声の後押しを受けて走ることがない中、100%の力を発揮できるのかなと少し心配していました。勝負際というか残り10分どう頑張るか、みたいなところはなく、何となく淡々と進んだように個人的に感じましたね。

J史上初の無観客試合をどう伝えるか。準備はいつもと同じ。当時気をつけたのは、テンションだった。

西岡アナ 無観客になった経緯を踏まえれば冷静に落ち着いた感じでやらないといけないと考えました。無観客の中で「いやあ良い試合です」ってテンションを上げてもしょうがない。

今回は「懲罰」ではなく「感染拡大防止」のため入場を制限した「リモートマッチ」だが、かつての経験をもとに「静寂」を生かす実況スタイルを頭に描く。

西岡アナ この試合が見たいというファンのために伝えるので、普段と違うものを楽しんでもらえる工夫が大事。別の角度の楽しみ方というか、選手が試合中に何を言っているのかなって聞きたいじゃないですか。僕らがしゃべりすぎて選手が何か言っていても聞こえないのは、もったいない。そういうところは聞かせたい。どう言葉で表現できるか分からないですけど、ファンあってのスポーツだということを中継を通じて伝えたいと思っています。

新型コロナの影響でマスク着用に手洗い、うがい、外出自粛と、日常生活に多くの制約が生まれた。そんな中、サッカーは消えた。「スーパーや病院と違い、サッカーは日常で『なくてはならないもの』ではないから、止まってしまった。それがすごく残念」と無念さを吐露し、続けた。

西岡アナ 「なくてはならないもの」に近づけたい。無観客でもやることでサッカーに関わる人も応援している人も、エネルギーが生まれると思っています。「もう止めないためにも、感染しないように気をつけよう」という1つのメッセージにもなる気がします。

選手の息遣い、感情の発露、喜怒哀楽の表情。視覚と聴覚から得られるサッカーの魅力に邪魔にならない言葉を添え、スタジアムの「空気」まで届けられれば-。それが人々の活力になり、感染防止にもつながれば-。使命と願いを声に乗せる。【浜本卓也】

◆西岡明彦(にしおか・あきひこ)1970年(昭45)3月1日、愛知生まれ。青山学院大卒業後、広島ホームテレビ入社。98年8月に退社後、フリーアナウンサーやコメンテーターとして活躍。サッカーではJリーグだけでなく、イタリアのセリエAや欧州チャンピオンズリーグなど海外中継の実況でもおなじみ。フットメディア代表取締役としてサッカー選手のマネジメント業務も行っている。