怪物FWがまた決めた。国見(長崎)の平山相太(3年)が、筑陽学園(福岡)を相手に2得点1アシストの大暴れ。6−0の記録的大勝で同校を2大会ぶり6度目の優勝に導くとともに、選手権通算17ゴールなど得点記録を次々と塗り替えた。史上初の2大会連続得点王に輝いて高校サッカーの頂点を極めた大型FWはターゲットを世界へと代え、U−23(23歳以下)日本代表の切り札としてアテネ五輪を目指す。

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大観衆の視線の先で、戦い終えた18歳のあどけない笑みがはじけた。平山は駆け寄る仲間たちを190センチの大きな体で何度も受け止め、力いっぱい抱きしめた。帝京(東京)と並ぶ戦後最多6度目の全国制覇を、自らの足で決めた。エースは期待を裏切らなかった。

「込み上げるものがありました。とにかく点を取りたかった。みんなに感謝したい」。全5試合で9ゴール。1大会最多得点記録に並び、史上初の連続得点王を手にした。さらに大会通算最多17得点の新記録も樹立。史上最高の高校生ストライカーが誕生した「平山の選手権」だった。

周囲の注目度が日増しに高まる中、怪物は自分自身と闘っていた。「不安だったし、焦りもあった」。昨年度は7ゴールを挙げて得点王になりながら決勝の市船橋(千葉)戦は不発で敗戦。その屈辱を忘れられず、決勝戦の前夜は寝付けなかったという。前半はゴール前で珍しくトラップミスを繰り返し無得点。それでも平山を信じ、得点記録更新を願う仲間からは次々とパスが送り込まれた。

後半16分、左サイドからの折り返しを相手GKの飛び出しを見極めて右足のインサイドで決めた。6分後には右クロスを頭で落としてFW渡辺のゴールをアシスト。40分には右サイドをドリブル突破しゴール左隅へ低い弾道で決めた。高さを生かしたポストプレーと強く正確なシュート。自らの持ち味を出し切った。

昨年末にはU−20代表に飛び級昇格し、ワールドユース(UAE)で2得点。8強入りに貢献した。自信をつける一方で世界レベルとの実力差を痛感した。母恵子さん(51)は「この経験は一生忘れないと話していました」と成長した息子に目を細めた。今月9日には「2階級特進」でU−23代表候補入りも果たした。

決勝を視察した山本監督は「平山は世界に通用する部分がある。UAEへの移動や現地の環境にも耐えられたし、技術だけではなく精神的な経験も積んだ。今後は小嶺総監督(国見)と相談して招集したい」と、切り札として3月の最終予選に呼ぶことを示唆。応援に駆けつけた国見OBの同代表FW大久保(C大阪)も「十分やれる。楽しみだし、先輩としてサポートしたい」。2トップの相棒として期待を寄せた。

活躍の舞台は世界へ。今後の抱負を聞かれた平山は「五輪って言わせたいんですよね? 絶対に言いませんよ。僕にとってはW杯が最高の大会ですから」とニヤリ。すでに、その目はW杯までを見つめている。高校サッカーの頂点を極めた怪物FWが、新たな戦いへ乗り出す。【山下健二郎】

▼平山の個人記録

◆通算最多得点 17へと伸ばし、94~96年度に北嶋秀朗(市船橋、現清水)が記録した16を抜く新記録。

◆1大会得点 9ゴールは、99年度石黒智久(現愛知学院大)に並ぶ歴代最多タイ。

◆2大会連続得点王 史上初。2回獲得した選手もいない。

◆優勝&得点王&全試合ゴール 全試合ゴールでの優勝は94年度北嶋らがいるが、全試合ゴールに得点王と優勝と3つの偉業がそろうのは史上初。

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◆井原正巳の目 注目され、期待される重圧の中、平山は自分の持ち味を出し、精神面の強さも見せた。シュートの場面でも慌てる様子はなく、常に落ち着いていた。相手守備陣の動きを見抜く力、状況判断が素晴らしいからだ。空中戦にも強いが、これも自分で狙うのか、味方を使うのか、判断が的確だ。

2点目は、緩急をつけたドリブルで相手DFを抜いてのもの。敵と味方の位置を見ていったんスローダウンし、パスも出せる状況から一気に加速して相手を抜き去った。余裕さえ感じさせた。大柄だがスピードの変化、ボールコントロールが素晴らしく、自分の「できる範囲」を知ってプレーしている。無理がない。

僕の母校でもある筑波大へ進むと聞いている。プロとは違い、自己管理が求められる環境だ。故障でつまずかないよう、トレーニングも私生活も自分でしっかりコントロールすることが大切だ。U−23代表候補に選ばれたこともあり、今後は視野が世界に広がるだろう。世界にはもっとすごい選手がいることを感じ、刺激を受け、大きく成長してほしい。(日刊スポーツ評論家)