ビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)をもって誤審があった。

日本サッカー協会(JFA)審判委員会の扇谷健司委員長は22日、オンラインで説明会を行い、18日のJ1開幕のサンフレッチェ広島-コンサドーレ札幌戦でノーゴールとなった広島の得点は認めるべきだったと発表した。再試合の対象となる「競技規則の適用ミス」ではないため、試合結果(0-0)は変わらない。なおJリーグでは、得点判定を補助するゴールライン・テクノロジーは使われていない。

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VARの信頼性を維持するため、審判委員会はあえて誤審を認めた。扇谷委員長は「本来なら審判は得点を認める事象であったと結論づけた。審判が今回、下した決断はあってはならない。おわびをして、信頼性のあるVARを目指さないといけない」と強調した。

問題の場面は広島-札幌の後半29分。広島が左CKからDF佐々木が頭ですらし、ファーサイドのMF川村が頭でシュート。札幌GK菅野はゴールへ飛び込むボールを左足でかきだした。御厨貴文主審はVARと交信したが、得点を認めることはなかった。

同委員長はミスが起きた原因について「1つは判断。もう1つはVARの映像を扱うテクニックが欠けていた」と述べた。VARの映像は解析度は粗いが、動画配信サービス「DAZN」の中継と同じもの。確認の段階で得点である可能性が高いと判断をしていたが、ボール部分を拡大して見るとボールがぼやけてしまい、明確な決断ができず、最終的にはフィールドの判定を受け入れたという。

そういう経緯を踏まえ、「今回はボールとゴールポストの間に芝生の色がしっかり見えてる。そういう場合はVARとして判断して、主審に得点を認めると伝えるべきだ」。VARの運用には「ファクトを見てください、とやっていたがコマ送りよりスローで見た方がもっと明確になった。そこを伝え切れていなかったことが問題」と反省した。なお、ゴールラインテクノロジーの導入は各スタジアムの環境が異なり現実的ではないという。

得点こそ認めたが0-0の結果は変わらない。広島に出向き、謝罪と説明をしたが「勝ち点2を失った」と言われた。再発防止へVARの審判員を集めたミーティングも開催。今回の担当者2人には「メンタルリカバリー、修業や教育が必要」と再指導を施す。その上で誹謗(ひぼう)中傷が起こらないよう訴えた。

映像を用いても起こる誤審。VARも運用、教育において発展途上にある。

◆VAR ビデオ・アシスタントレフェリー。試合中の微妙な局面を映像で確認し、主審に伝えて判定を手助けする「ビデオ副審」。(1)得点(2)PK(3)一発退場(4)警告などの選手間違いの4項目で主審を補助する。W杯では18年ロシア大会から導入。Jリーグでも19年から一部試合で導入された。20年からJ1全試合に導入予定だったが新型コロナウイルスの影響で1試合のみの適用。21年からJ1全試合で導入されている。今季からオフサイドラインの3D化の新技術を導入した。

 

○…Jリーグ野々村芳和チェアマンは誤審について「理事会では理事に報告した。リーグとしては今のサッカー界の進歩の中で、テクノロジーをどこまで提供して審判をサポートできるかだと思う」と話した。一方で、ゴール判定に使われるゴールラインテクノロジーを導入するには莫大(ばくだい)な金額もかかり、導入自体が難しいスタジアムもある。「機材等を含めたら10億円ぐらいかかる。やろうと思えばお金を掛ければできるが、そこは難しい」。さまざまな兼ね合いを考えながら、判定の精度向上へ取り組みを続けることになりそうだ。