「琵琶湖の海賊」近江(滋賀)が、優勝候補の神村学園(鹿児島)も突破した。

後半ロスタイムにMF鵜戸瑛士(3年)が決勝点を挙げ、大接戦を4-3と制した。滋賀県勢のベスト4進出は、2005年(平17)度の第84回大会で初優勝した野洲以来18年ぶり。逆境になれば燃え上がるワイルドな男たちが、次は夢の聖地・国立のピッチへと乗り込む。

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近江の海賊たちにとって、逆境こそ最高のご馳走だった。名和田のFKが決まり、2-3と勝ち越された。勝負はついたか。取るべき役者の得点で、流れは完全に神村学園にあった。だが終わりでなく、これが始まりだった。

怒濤(どとう)の攻撃が始まる。DFラインを高く上げ、ゴールを目指してどんどん前に入っていく。水を得た魚とはこのこと。暴れん坊たちの輝ける時間となった。後半26分に右CKからMF山本が頭で押し込み同点。そしてロスタイムの後半43分、左サイドからDF金山がクロスボールを起点に、MF広瀬、MF山門を経由し、最後はこぼれ球を鵜戸が右足で決めた

土壇場での逆転劇に1万117人の観衆を記録したスタンドが沸いた。先制点に続き2得点と大活躍の鵜戸は「自分のところにボールが来ると信じて走った。本当にうれしかった」と夢見心地で振り返った。

チームのスローガンは「Be Pirates!(海賊になれ!)」。清水にも在籍した元Jリーガー前田監督はこう言って選手たちにハッパをかける。鵜戸は「うちのチームはどこよりも泥臭く走り、そしてボールをつなぐ」。局面に次々と動きを重ねていく姿はまさに海賊さながらだ。

全国選手権という大海原で、相手が強ければ強いほど力を発揮。下馬評を覆し、2回戦で全国総体3位の日大藤沢を、3回戦で全国総体優勝の明秀学園日立をPK戦の末に突破。この日は前回大会4強で、名和田、吉永というU-17W杯に出場した選手を抱えるタレント軍団までも撃破した。

その航海は夢の国立へと続く。海賊風のワイルドな口ひげが似合う親分は「聖地がどんなところなのか、しっかり脳裏に焼き付けたいね」と不敵に笑う。勢いづいた暴れん坊が止まらない。【佐藤隆志】