ブラジルサッカー界が揺れている。

同国では1週間後の今月13日から南米選手権が行われる。もともとコロンビアとアルゼンチンで共催される予定だったが、コロンビアで反政府デモが激化し、さらに両国ともに新型コロナウイルスのまん延が深刻化していることから、南米サッカー連盟(CONMEBOL)が開催地変更を決定。ブラジル・ボルソナロ大統領の承認を得て、同国で南米選手権を行うことが決まった。

だが、ブラジルでもコロナ禍の状況は続いており、ここまで累計で約1700万人が感染し、47万人以上が亡くなっている。主将のカゼミロ(レアル・マドリード)やチチ監督らブラジル代表の選手、スタッフらは母国での選手権開催に疑問をもっているとされ、8日に正式に声明が発表される見通しだ。

そんな状況の中、同国サッカー連盟のカボクロ会長が、連盟の倫理委員会から30日間の職務停止を命じられた。同会長は女性職員からセクシャルハラスメントで訴えられており、それについての調査が行われるという。実はカボクロ会長の3人の前任者もいずれも贈収賄により、国際サッカー連盟(FIFA)から永久追放されており、さらなるスキャンダルが追い打ちをかけた形となった。

ひどいコロナ禍にもかかわらず、国のトップが大会開催を決め、連盟会長は問題を起こしてオフィスを去る。ロイター通信の記事を読みながら「これって、日本のことじゃないよな?」と思わず考えてしまった。

ただ、ブラジルで行われる南米選手権の状況は、日本が東京オリンピック(五輪)を開催するのであればある意味、参考になるだろう。ブラジルではここまでボルソナロ大統領の意向で経済活動が優先され、同大統領は個別にロックダウンを行った州知事たちを批判してきた。さらにワクチン接種事業も遅れている(それでも100人あたりの接種回数で比較すると日本の約3倍の数は接種されている)。

日本でも不要不急の外出自粛が呼び掛けられてはいるものの、厳密なロックダウン等は行われておらず、ワクチン接種も他の先進国から大きく水をあけられている。ブラジルとは死者や感染者数に違いはあるものの、コロナに対するアプローチという面ではそれほど大差がないように映る。

東京五輪は、外界との接触を完全に断った「バブル」の中で行われるとされている。だが飛行機にバスを横付けし、そのまま選手たちをホテルに移動させることすらできない日本では、バブル環境を形成することは物理的に不可能だと考える。

南米選手権も日本と同様の状況で開催されるはずで、コロナ禍での一大スポーツイベントが社会にどのような影響を与えるのか参考になるはずだ。五輪関係者にはこれまでのように「奇跡的にうまくいった場合」ではなく、最悪の状況を想定して五輪開催について検討してほしいと思う。【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)