先日、22年ワールドカップ(W杯)カタール大会の事前取材のためにドーハを訪れた。11月20日の開幕戦まであと2カ月程度。街は世界最大のサッカーの祭典を目前に控え、いよいよ活気づいていた。

ドーハ滞在中、W杯決勝戦のリハーサルを兼ね、決勝の舞台ルサイル競技場で「ルサイル・スーパーカップ」が行われた。(前身の大会を含め)4度のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)優勝を誇るサウジアラビア王者アルヒラルがPK戦の末、エジプト王者ザマレクに勝利。ほぼ満員となる7万7557人の観衆も大歓声を上げて試合を楽しんだ。

この一戦を取材するために世界各国から50社以上のメディアが約1週間ほどドーハに集結した。ある日、親しくなった韓国人記者が、彼の地元のチームだという韓国1部・全北現代の緑色のユニホームを着て取材現場に現れた。そして背中のハングルを指さし「これ何て書いてあるか分かる?」と聞いてきた。

筆者が「分からない」と答えると、彼は「邦本宜裕。僕の1番好きな選手だ」と笑顔を見せた。

そう彼が着ていたのは今年7月まで全北現代に所属し、3シーズンでリーグ戦64試合に出場し、10ゴールを挙げるなど活躍した邦本のユニホームだったのだ。

その邦本だが、今年7月に飲酒運転で警察に摘発され、クラブから契約を解除された。その後、ポルトガル1部カサピアと契約。ここまでリーグ戦7試合全戦で先発し、1ゴールを挙げている。前出の韓国人記者は「(邦本は)本当に良い選手で、日本代表に入ってもいいと思うくらいだった。それだけに契約解除は本当に残念だ」と話していた。

この言葉を聞き、日本人選手が韓国でも高く評価されていることをうれしく思うのと同時に、契約解除についてがっかりしている韓国人ファンもたくさんいるのだということを、邦本にも知ってほしいと感じた。

邦本は所属していた浦和ユースを14年に退団。その後、加入した福岡では17年にクラブの秩序風紀を乱す行為があったとして契約を解除された。そして今季、飲酒運転で全北現代を去ることになった。

「クラブを退団するたびになぜかステップアップする珍しい選手だね(苦笑)」という韓国人記者の言葉は、邦本の実力を表しているとも言える。ドリブルのキレ、切り裂くスルーパス、そしてシュートの精度。日本代表の久保や堂安と比較しても決して劣っていないと感じる。その異色な経歴も相まって、ポルトガルでも目が離せない存在だ。

【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)