開幕前、優勝候補筆頭に挙げられていた16年ぶり2度目の優勝を目指すスペイン代表は、ワールドカップ(W杯)北中米大会初戦のカボベルデ戦(0−0)に引き分けたことで疑問符がついたものの、サウジアラビア(4−0)とウルグアイ(1−0)に勝利し、1次リーグH組を無事に首位通過した。
■悩みはウインガーの状態
1次リーグを終えての成績は、3試合2勝1分け、5得点0失点。1試合平均のボール支配率69%、シュート18・3本(計55本)、枠内シュート5・3本(計16本)、パス成功率92%、パス730・3本(計2191本)、クロス27・3本(計82本)、サイドチェンジ成功率95%、ファウル5回(計15回)、被ファウル11・3回(計34回)、イエローカード2枚、レッドカード0枚。
この成績や試合内容を見る限り、特にパス精度に優れ、試合の大半を支配する、いつも通りのスペインと言える。しかし、スペイン紙マルカが独自に算出した優勝確率で、大会前はトップの29・6%だったのに対し、決勝トーナメント進出チーム決定後は21・0%まで低下。トップは27・0%でアルゼンチンとなった。その理由には、ここ3試合でのパフォーマンスや、決勝トーナメントの組み合わせがアルゼンチンよりも厳しいことなどが大きく影響している。
現地でさまざまな分析が行われる中、ネガティブな点としては、デラフエンテ監督が「相手に大打撃を与えられるエリアをより容易に見つけられるよう、ボールの回し方を改善する必要がある」と1次リーグ終了後に語ったように、カタール大会同様、守りを固めた相手の崩し方に問題を抱えていることが挙げられる。そして、その状況を打開する切り札となる、2年前の欧州選手権優勝の原動力となった縦への突破に優れたウインガー全員が万全の状態でないことも指揮官の頭を悩ませている要素だ。
けが明けのFWヤマル(バルセロナ)はまだ本調子ではなく、FWジェレミ・ピノ(クリスタル・パレス)とニコ・ウィリアムズ(ビルバオ)はウルグアイ戦のラフプレーで戦線離脱を余儀なくされた。負傷した状態で代表チームに合流したビクトル・ムニョス(オサスナからリバプールに移籍)もまだ起用できる状態ではない。
■シモンが挑む2つの記録
一方、ポジティブな点として、スペイン代表史上初めてW杯の1次リーグを無失点で終えたことが挙げられるだろう。DFクバルシ(バルセロナ)とDFラポルテ(ビルバオ)のセンターバックコンビが卓越したプレーを見せ、ボールロスト後のハイプレスが機能していることはもちろんだが、W杯で429分失点していないGKウナイ・シモン(ビルバオ)の存在が非常に大きい。デラフエンテ監督は度々、「アーセナルで結果を出しているラヤの方が正GKとして相応しいのでは?」という質問を受けるも、ウナイ・シモンに全幅の信頼を寄せ、本人もその期待に見事応えてきた。
世界最高との呼び声高いMF陣を擁していることによりボール支配率が高いため、打たれたシュート自体は少ないが、時折受けるカウンターなどからのチャンスを完全に抑えている。W杯最後の失点の相手は、カタール大会・1次リーグ第3戦日本戦で“三笘の1ミリ”を決めた田中碧だった。
ウナイ・シモンはこの後、決勝トーナメント1回戦(ラウンド32)オーストリア戦で2つの記録に挑むことになる。
ひとつ目は90年のイタリア大会でイタリア代表GKゼンガが記録したW杯の世界記録517分無失点を上回ること。オーストリア戦で89分耐えれば偉大な記録達成となる。
ふたつ目はスペイン代表史上の無失点最長記録(10年の南アフリカ大会でカシージャスが記録した477分)を更新すること。これはオーストリアを49分間無失点に抑えられれば新記録樹立となる。
さらに、代表チームの公式戦連続無敗の世界記録を更新し続けていること(現在34試合。最後の敗戦は23年3月のスコットランド戦)、そして親善試合を含めて直近33試合負けていないことは、チームの安定感を証明している。
■深夜でも視聴率69・9%
スペイン国内でチームのパフォーマンスに物足りなさを感じている人が多いのは事実だが、それでもここまでの3試合は相手を圧倒しており、関心も大会が進むにつれて高まっている。視聴率は月曜日18時キックオフのカボベルデ戦が60・4%、日曜日18時キックオフのサウジアラビア戦が55・9%。ウルグアイ戦は金曜日深夜2時キックオフにもかかわらず69・9%に達した。対戦相手の難易度や決勝トーナメント進出が決まるなどの理由により、注目となったためであろう。
負ければ敗退が決定する次のオーストリア戦は、ヤマルの完全復活とW杯までの道のりで見せていた得点力の回復を期待しつつ、16年ぶり2度目の優勝を目指す上で資金石となる。また、ニコ・ウィリアムズとジェレミ・ピノが準々決勝で復帰できる可能性があるため、2人が欠場したまま大会を終えないためにも勝ち続ける必要がある。
スペインはオーストリアに勝利した場合、ラウンド16でポルトガルとクロアチアの勝者と対戦し、順調に勝ち抜いていくと、準決勝でフランス、決勝でアルゼンチン、ブラジル、イングランドと顔を合わせる可能性がある。参加国が増加したため道のりは長いが、まずは前回涙を飲んだ決勝トーナメント1回戦に集中しなければならない。【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)






